〜第四話 「目覚めし光の刃」〜


封紋が破られ遺跡の壁から巨大な手が、足がその呪縛から解き放たれる。
その巨人は大きく一歩踏み出すと地面にその足を置き、身を壁から引き抜いた。
地響きが鳴り、遺跡の壁に共鳴し耳障りな音を立てる。
「おいおい・・・シャレにならねぇっての・・・」
ロナードが半端な泣き声にも聞こえる呟きを洩らす。

岩石の巨人、ロックゴーレム。全長は軽く5メートル以上。全身を強固な岩石面で構成しており並大抵の魔術、武器では傷つけることすら用意ではない。
このランクの遺跡にこのモンスターは、明らかに異常であった。
逃げまとうルシア達の背後からゆっくりと歩を進めるロックゴーレム。
「チッ・・・!このままじゃラチがあかねぇ。」
不意に、ルシアが足を止めロックゴーレムに向き直る。
「ル、ルシア!?」
「おい!何する気だよ!!」
ロックゴーレムに立ちはだかるように止まったルシアにキャリーとロナードが慌てて声を掛ける。
「いつまでも逃げ回ってちゃしょうがねぇだろ、ブッ倒す!」
「無茶言うなよ・・・!」
ロナードは抗議するが、ルシアは腰のロングソードを引き抜くとそのまま正面からロックゴーレムに向かって走り出した。
「『どうにかなる」じゃねぇ・・・『どうにかする』んだよ、俺はな・・・!!」



小気味よいカウベルの音がまだ客の無い店内に響く。
「こんにちわ〜。セシルさん、もう平気?」
ファーウェルの名物酒場「ペリュトン」の戸を潜ってきたのはライトブロンドのポニーテールの女性だった。
綺麗な蒼眼に整った顔立ち。着飾ればすれ違う男はほとんど振り向きそうなルックスだが今の彼女の服装はいつも通りの少しよれたYシャツにジーパン、ジージャン姿であった。
彼女の名はカリン・エンプレシア。一応プリーストらしいが、その首から下げられたロザリオと手に持っている錫杖が無ければただのフリーターにしか見えない。
「・・・何か、今失礼な紹介された気がする・・・。」
「?どうかしました?カリンさん。」
カウンターの奥でグラスを磨いていたセシルが怪訝そうな顔を見せる。
「今日は早いですね。何にします?」
「あ、じゃあいつもの♪」
「はい。ツナピラフとアップル・ティーのセットですね。」
セシルはにこやかに答えて早速調理を始める。
ちょうど歳も近いせいか、この二人は比較的仲が良かった。
「あれ?今日はいつもの五月蠅い連中は?」
そこで初めて気づいたようにカリンが店内を見回してそう訪ねる。
「ああ、キャリーちゃんとルシア君はミラ遺跡だって。アガート君はボウスシェイバーまで用事があるって、3時間ぐらい前に・・・。」
「首都に、あの性悪男が?・・・何しでかした訳?」
「そんな、悪し様に・・・」
困ったように苦笑するセシル。
「・・・首都、かぁ・・・・。」
差し出させれたアップルティーを一口啜り、誰へとなくカリンが呟いた。



「はぁぁっ!!」

ギィィィンッ!!

ロングソードでロックゴーレムの左足を斬りつけ、そのまま背後へ回り込む。鈍重なロックゴーレムは振り返ろうと身を捻るが、その前にルシアは足を止め後ろ足で力強く地を蹴りロックゴーレムの懐に飛び込むと今度は脇腹を斬りつける。
2度もの攻撃、しかも普通の魔獣や人間相手なら大抵少なからずダメージを受けるこの攻撃にも、強固なロックゴーレムの装甲は傷が付く程度であった。
「ったく、いい加減死ねよこの野郎・・・!」
愚痴を洩らしたところでロックゴーレムが聞き入れてくれるはずも無いが、ルシアはそれでも文句の一つでも言わないとやってられないといった心境だった。
「おいキャリー、援護しろ!!」
「え、え、私が!?」
突然指名されキャリーはパタパタと手を振るがルシアはそんな事にも目もくれずロックゴーレムに剣撃を与えながら続けて
「お前のしょぼい魔術でも牽制ぐらいにゃなるだろ!とっととやれ!!」
「しょぼい・・・・」
「まぁまぁ、キャリーちゃん」
ちょっとふてくされたキャリーにロナードが慌てて宥めに入る
「・・・自信ないけど・・・どうなっても後で文句言わないでよね!!」
「ああ!いいから早くやれ!!」
キャリーは肩から下げていた鞄から魔術書を取り出し、素早くページをめくると左手で魔術書を抱え、右手を上げ人差し指で宙に何かを描くようになぞっていく。
精神が湖水のように静まり、波紋が力となり浸透してゆく。
訓練された精神力はその身の魔力を形にし、次第にそれを形にする・・・。
「さて、と・・・。そんじゃま、俺も行きますか。」
詠唱に入ったキャリーを見て手に持っていた棒をくるんでいた布を引き剥がす。
布の下からは青き槍身と金色の刀身に彩られた一本の槍が現れた。
ロナードの手がその槍に掛けられる。槍が回旋し、空を切り裂く。
半ば当たりに握りを入れ、脇に挟むように構える。その構えは東国の拳法家を彷彿させる。
ロナードは足下のルシアに拳を振るい続けているロックゴーレムの真正面から突進した。
「ルシア、退けぇ!!」
ロナードは槍を持った右手を背後に下げ、その「力」を念じる。
金色の刀身に淡い光が纏い、輝く。
(魔力武器・・・・!あいつ、あんなシロモノ持ってやがったのか・・・!)
内心ロナードの意外な獲物に驚きながら、ルシアはロックゴーレムの拳をかわすと横飛びにその場を退く。
そしてそれに入れ替わるようにロナードが駆け寄り、拳を戻しかけたロックゴーレムの腕に足を掛けると何とそのまま掛け登っていく。
ロックゴーレムはその侵入物を排除すべくもう片方の腕で掴もうとするが、ロナードは槍の柄でロックゴーレムの腕の上で器用にバランスを取り、今度は掴みかかってきた腕に飛び乗り、更にそれを踏み台にしロックゴーレムの分厚い胸板目掛けて飛びかかった。
「いくぜ!魔槍グングニル、『破龍』!!」

ゴォォオッ!!

風切り音が遺跡に響き渡る。その槍はまるで弾丸の如く真っ直ぐ標的に向かって放たれた。
そして魔力を帯びた槍の強烈な一撃がロックゴーレムの胸部を突き刺す。
貫くことこそ出なかったが、その威力にロックゴーレムの強固な胸板に大きく亀裂が生じ、そのまま地響きを立て倒れた。
「おっしゃあ!会心の一撃、ロックゴーレムに250のダメージを与えた」
「なんだ、その中途半端な数値は・・・」
半眼で何処か呆れ顔をするルシア。そしてちょうどそこに後方にいたキャリーもまた、詠唱を終えたところだった。
「ルシア、ロナードさん、下がって!!」
キャリーの合図と共に二人がその場を急いで離れる。

−ォォォォォォォォォォォォオオオオオオ・・・・・−

地鳴りのようなうめき声を上げ、ロックゴーレムがゆっくりとその上半身を起きあがらせる。
だが、それを待つほど、キャリーも間抜けではない。
脳裏で描かれた構想が魔力と精神力を糧に「形」となる。
その「形」は「力」となって、キャリーの中に具現化した。
キャリーは両手を真上に突き上げ、ロックゴーレム目掛けて「それ」を振り下ろす。
「『バーストフレア』!!」
灼熱の火球が「力ある言葉」と共にロックゴーレム目掛けて飛来する。

ゴォォォォオオオオッ!!!!

辺りに熱風と爆音が響く。
ルシアもロナードも爆音に痛む耳を押さえながら爆風にまみれたロックゴーレムの方へと振り返る。

ーオォォォォォォォォォォォォオオオオ・・・・・−

ズシィ・・・・、と重たい音を立て、岩石の巨人が再び地に伏せた。
破壊とまではいかなかったが、キャリーの放った中位火炎魔術はロックゴーレムに大きなダメージを与えることが出来たようだった。
「おっし!よくやったキャリー!」
「キャリーちゃん、偉い!」
ついさっきまでかけらも期待していなかったルシアもロナードも手のひらを返すようにキャリーに駆け寄る。
「まさかお前なんかが中位魔術まで使えるとはなぁ。」
「何かすんごく引っかかる言い方だけど・・・魔術書があればできるわよ?・・・・時間かかるけど」
少しふてくされたように俯きがちに呟くキャリーの頭にルシアがポンポンと手を置く。
「いや、十分だ。よくやったな、キャリー。」
「・・・・うきゅ・・・・・・。」
何処か不満げな顔をするが、珍しく笑顔で自分の金髪を撫でる手に、別段抵抗はしなかった。
「ルシアってさ・・・・時々すごく優しいよね。」
「・・・失礼な。俺はいつだって優しいだろうが。」
「何言ってるのよ!いっつもいっつも私のこと虐めてるくせに!!」
「虐めてねぇよ。からかってるだけだろ?」
「・・・家賃値上げしてやる・・・・。」
「ご免なさい、キャリー様。」
「弱いな・・・お前。」
ルシア達のやりとりを横で見ていたロナードがポツリと呟く。ルシアが何か言いたげに睨んできたが、あえて無視した。
「・・・もしかして、無理矢理付き合わせたの・・・怒ってる?」
「馬ーーーーーーーーーーーーーーー鹿。気にしすぎすぎだ、似合わねぇし。」
「・・・・家賃。」
「申し訳ありません、姫。」
「弱い、弱すぎる・・・・。」
しばらくそんな会話を続けていた3人だったが、不意にキャリーが遺跡の祠の方で何かを見つけた。
「あれ?」
先程闇コウモリとの戦いの際、崩れた祠の柱の下に散らばった破片の中に、何か光る物が落ちてある。
キャリーは何気なく「それ」をつまみ上げ、手のひらに乗せる。
金色の、赤い小さな宝石のような玉がついた、鍵のように15pほどの小さな棒状の物・・・。
「これ、なんだろう?ねぇルシア。」
「何だよ、ちょっと見せて・・・・」
祠の下でしゃがみ込んでいたキャリーに歩み寄ろうとして、ルシアはとっさにキャリーに飛びかかり、突き飛ばす。
「きゃっ!ちょっと、ルシ・・・・」

>ゴゥッ!!

キャリーのセリフが言い終わる前に、祠を抉るようにロックゴーレムの拳が下からすくい上げられるように振り上げられた。
「ぐあぁっ!!」
ちょうとさっきまでキャリーがしゃがんでいた空間が、祠ごと粉砕され、瓦礫となって空に舞う。
そして、ルシアもその攻撃にまみれ、無数の瓦礫に身を打ち据えられ、遺跡の壁に叩き付けられた。
「ぐ・・・・はっ・・・・・!」
「ルシア!!」
慌てて駆け寄ろうとするキャリーの肩をロナードが掴み、制止する。
「よせ、危険だぞ!」
「で、でも・・・ルシアが。」
「俺がゴーレムの気を引くから、その隙に・・・・・・っ!」
ロックゴーレムは続いて標的をキャリーとロナードに向け、踏みつぶさんとばかりに足を上げ、踏みつける。
とっさに転がり逃げる二人であったが、ルシアはロックゴーレムの後ろ、ちょうど反対側で崩れ落ちたままだ。多分、動けないほどのダメージなのだろう。
「無理もねっか・・・あんな馬鹿でけぇ拳でアッパー喰らったらなぁ・・・。」
グングニルを逆手に構え、キャリーを護るように前に出るロナード。
ロックゴーレムの胸はさっきのロナードの一撃とキャリーの魔術によりひび割れ、かなり欠けてはいたが、それでもその巨人の戦闘力は十二分に二人を追いつめるだけあった。
「ルシア、ルシア・・・・・!」
キャリーの悲痛な声も、今のルシアには耳に届かなかった。



(痛ぇな・・・・・体が動かない・・・・動けねぇ・・・・・)
朦朧とする意識の中、ルシアは朧気な視界の中に必死に逃げ、抗戦するキャリー達の姿を見た。
(くそっ動け、動けよ・・・!たった一発でこのザマじゃあ格好つかねぇじゃねぇか・・・!)
足掻いても、藻掻いても、指先一つ、動かせない。
揺れる視界に、ロナードがロックゴーレムの拳を槍で受け止め、はじき飛ばされるのが見える。
キャリーが飛び散る岩や瓦礫に叩かれているのが見える。
思えば、あの日・・・数年前にファーウェルの近くの森で重傷を負って倒れていたところを救われたあの時から、密かに誓ったのではないのか?
記憶を失い、自分自身すら分からない中で、初めて見えた、一筋の希望・・・温もり・・・。

−あの・・・・大丈夫ですか?−


−酷い怪我・・・待ってて下さい!直ぐお医者さん呼んできますから!!−


(あの時は一瞬あいつが天使に見えたっけ・・・・。今思えば、随分ドジな天使だけどな・・・)
結局、そのまま彼女の救われ、街で暮らすことになり、現在に至る。
口喧嘩も絶えないが、なんだかんだ言って頼ってくれる彼女を、今日のように少し甘えてくれる彼女を、決して嫌いではなかった。
自分はそれで、今ここにいるという存在理由を、居場所を見いだせるのだから・・・

            守って見せる・・・絶対に・・・・。

(それで俺はここでぐったりしてるってのか?冗談じゃねぇ・・・冗談じゃねぇぞ・・・・・!!)
必死に身を起こそうとする。だが、心とは裏腹に体はたった一撃の攻撃により、既に限界にあった。
(ふざけんな・・・!今こんなことしてる場合じゃねぇだろ!動けよ、俺の体だろ?だったら俺の言うこと聞きやがれ・・・!!)
どんなに願おうとも、細胞が拒否する。激痛が走るが、そんなことはどうでもいい。
今しなくてはならないのは、倒れることではない、守ること・・・・・。


              −この力・・・素晴らしい・・・−


ふいに、頭の中に声が響く。
一瞬誰が喋っているのかとも思ったが、こんなところに自分たち以外の人間がいるわけもない。
頭痛にも似た痛みが、脳に走る。
(・・・・何だ、今のは・・・?)


        −おのれ・・・!貴様如きに、貴様如きに邪魔はさせんぞ!!−


(誰だ、俺の頭ん中で喋ってんのは・・・・)
そう問いかけても、何も返ってはこない。
ただ、声は淡々と続く。v

            −どうして・・・どうしてこんなことに・・・・−


(何なんだ、何なんだよ一体・・・・これは一体・・・・・!)


             −逃げろ、逃げてくれ・・・・お前だけでも−


(違う、これは・・・・・・記憶?俺の・・・・・俺の・・・・・・・)


 −うわぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ〜〜〜〜!!!!−



(俺の・・・・・・・・・・力・・・・・・・・・っ!!)



さっきまでのダメージがまるで幻のようにルシアはしっかりと地を蹴り、足を踏みしめ立ち上がる。
何も分からない、分かる術もない。ただ、今自分がするべき事を、望むことを、するだけだ・・・。


「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」


力がみなぎる。体中の血が煮えたぎるように、熱く、激しく躍動する。
自分の中で、何かが変わる感覚。
それと同時に、決して不変なり、不屈のその想い・・・心。
今の自分なら、何でも出来る。そう、たとえば今自分の仲間達を奪おうとしている巨人を倒すことも、
今の俺なら・・・・・・できる。
ルシアの体を淡い金色の光が覆う。光は輝きと力を放ち、ルシアの意に従う。
「我が光、我が力!!」
「力ある声」に呼応し、閃烈の光が掲げられたルシアの右手に収束する。
次第にそれは形を成し、眩い閃光の刃と化す。
まるで、光が剣になったように、ルシアの右手には剣を握るのと同じ感触と重みがあった。
ただ一つ違うと言えば、その力が、振るわずとも感じ取れる事・・・。
「行くぜ・・・・!!」
大地を蹴る。走り出す。もう誰も、誰も止められない・・・・!
強大な力。燃え上がる闘志。だが、それとは逆に鮮明に、穏やかな心。
キャリーが、ロナードが驚いた顔で自分を見ている。
だが、今はそれよりも先にこいつを倒す。
目の前の、この敵を・・・・!!
「な、何だ!?あの光は!」
「魔術・・・・?違う、あんな魔術無い!魔力を武器化するなんて・・・・そんな・・・!」
何を驚く?どんな力だろうと、どんな過去があろうと、どんな運命があろうと、
「俺は・・・・俺のまま、俺の信じるままにこの刃を振るうだけだ!!」
ロックゴーレムが繰り出した拳を正面から光の剣で切り結ぶ。
ロナードの槍でも貫けなかったその堅い体が、ひび割れ、砕け始める。ロックゴーレムがボロボロと崩れ落ちる自身の右手を見て、呆然とするのが分かる。
(終わらせねぇよ・・・・まだな!)
力強く蹴りだし、跳躍する。光の刃はその輝きを収束させ、輝ける一振りの剣と化していた。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああ〜〜〜〜っ!!!!」
全力で、斬りつける。立て続けに攻撃されてきたロックゴーレムの胸部が、切り裂かれ、崩れ始める。
片膝を付き、崩れる胸を左手で押さえるロックゴーレムの頭上から、ルシアは空中で振りかぶり、その力を、その輝きを用いて猛襲する。
「キャリーに手ぇ出しやがって・・・・冥界で懺悔しな・・・・!!」
ルシアの光が、眩い光刃がロックゴーレムに振り下ろされる。
光は力となり、力は光となって放たれる。
「『ライナーブラスト』!!」
光の剣がロックゴーレムの脳天から叩き込まれ、その破壊力が浸透して行く。

−オォォォォォォォォォォォォオオオオォオオオオオオオオオ・・・・・・!!!!−

ロックゴーレムは低く唸るような断末魔の声を上げ、光の中砕け散った。
「・・・・・・ふぃ〜・・・。」
着地し、急に力が抜けたようにへたり込むルシア。その手から光の剣も静かに消えていく。
「ルシア!!」
キャリーがルシア目掛けて飛びついてくる。
キャリーもルシアも、体中傷だらけで汚れていたがそんなことはお互い気にしなかった。
「大丈夫?何処か怪我は?どっか痛くない?」
「・・・全身。」
疲れ切ってはいたものの、ルシアはニッと笑みを見せるとクシャミクシャとキャリーの頭を撫でた。
「お前も、頑張ったな。」
「うきゅ・・・・・。」
「あの〜・・・・・・・・・・もしも〜し?」
ロナードが気まずそうに遠慮がちな声を上げる。
そこでルシアに飛びついたままだったキャリーも慌ててルシアから離れた。
「いやいやいやいや、みんな無事で何よりだ。・・・・・で、ルシア。一つ聞きたいんだけど、何だったんだ?最後のあのロックゴーレムをぶっ飛ばした技。魔術か?」
ロナードはさも当然の疑問を率直をルシアにぶつけた。
だがその言葉にキャリーが横から口を挟む。
「そんな。どんな魔術だって魔力をあんなハッキリと固定具現化させて武器化させるなんてまず定理的にも不可能ですよ・・・。ねぇ、ルシア・・・・・。」
「・・・・さぁ。」
「さぁ、って・・・おいおい。」
「仕方ねぇだろ?俺にゃあ過去の記憶がねぇんだ。もしかしたら俺はホントは物凄い魔術師か天才だったのかもな。」
「でも・・・それにしてもまず異質よ?あんな力・・・。」
ルシアの軽口に応じずキャリーはポツリと呟く。それだけ、心配と言うことだろうか。
「・・・大丈夫だよ。俺は・・・どんな記憶があっても俺は俺だ。変わんねぇよ。何もな。」
ポン、とキャリーとロナードの背を叩き、元来た道へ歩き出す。
「さ、帰ろうぜ。いい加減腹減ったしよ。」



        −自分自身が何かなんて、誰だって分からない。−



     −だからこそ、人は迷うもの。迷わない人間なんて、人間じゃない。−



 −けど、これだけは言える。例え何があろうとも、どんな事があっても変わらぬものがある。−



      −変わらないと言うのは、変わることより遥に難しいのだから。−



       −だから、強くなろう。大切なのは、守るべきための、力−






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