「ラストソング」 〜第十二話 「王宮舞踏会」〜


ギルド本部の敷地内にある団員用の寮。その一室に一人ヴァイツはベッドの上に腰を掛け窓の外を眺めていた。
別段何を見ている訳でもなく、ただ外を見ているだけであり、そこに理由や動機などはない。言うなれば、今の彼にはこれといって何もすることがなかったのだ。
俗に、こういうことを「暇」というのだが。
「・・・。」
窓の外ではギルドの下士官達が慌ただしく色々な材木や道具を持って行き来している。最厳重牢とそこの壁の修理をしているのだ。ちなみにその牢を壊した張本人は今ここでそれを眺めていたりするのだが・・・。
王都は再び平和を取り戻していた。だがヴァイツの心境はと言えば決して良くはない。長年の仇敵を取り逃がし今もその足取りを掴む術を失いギルドにその情報収集を任せ待つしかできないでいる現状。
歯がゆさ、苛立ち、焦燥・・・色々な思いがヴァイツの胸を渦巻く。
「・・・ゼクロス・・・・。」
窓の外、皮肉げにすら見える透き通った青空に、彼は小さく呟いた。


一方その復旧作業現場ではクルスが巨大な角材やパネルなどを抱え上げていた。
ゼクロス脱走、ダレス離反の翌日の朝。ギルドでは大忙しで作業が続いていた。
「はい、壁の分の角材。ここに置いておきますね」
「え、ええ・・・・ど、どうも・・・」
最厳重牢の壁の大穴を修復していたギルドの下士官はクルスが持ってきた膨大な角材にたじろきながらもそう答えた。
「いっぺんに持ってこなくても・・・お、重くなかった・・・ですか?」
「いえ、平気ですよ?」
汗一つかかず、軽く7〜80sはある角材を持ち上げ外からこの最厳重牢まで運んできたクルスに下士官はただただ呆然とするしかないでいた。
「地属性の精霊士は常人より多少力があるんですよ。だから、これぐらいなんて事ありませんから」
「た、多少・・・ですか?これで・・・」
普通なら大の男が3人掛かりで持ち運ぶような代物を涼しい顔で言ってのけるクルス。
「はあ・・・ご苦労様です」
「いいえ」
そう言うとクルスは再び部屋を出ていく。と、そこに見慣れた少女がこちらに走り寄ってきた。
「あ、クルスさん。お手伝いですか?」
「ええ、最厳重牢が壊れてては、何かと良くないし」
「今は誰も入れる人がいないのが幸いでしたね」
言ってから失言だったと、少女が口を両手で押さえる。
「す、すいません・・・。ゼクロス・オルタネートの脱走・・・。ダレス室長の離反。ギルドの大失態ですよね・・・」
「そうね。でも、だからと言って何時までも気にしてないで一刻も早くゼクロスを逮捕、でしょう?」
ニッコリと優しく微笑みかけるクルスに、下士官の少女も表情を和らげる。
「でも・・・。何て言いましたっけ。あの『宝玉』強奪犯・・・。えと、ヴァイス、でしたっけ?」
「ヴァイツ・クロフォード、ね」
クルスが訂正すると少女はポン、と手を叩き
「そうそう、その人。えっと・・・なんでしたっけ。なんだかんだでギルドの一員になったんですか?」
「ううん、ギルドに入ったんじゃなくてゼクロスの逮捕の任を受ける代わりに宝玉事件の罪を帳消しにされたのよ」
ギルド内部はおろか、既に大陸中に既にヴァイツの賞金は解かれていた。その詳細も『魔竜族』の事やヴァイツの事情、ゼクロスとの関係などは伏せられたまま、残りの事実は全て公表されたからだ。これも長老が何もかも手を回してくれたお陰であろう。
かと言ってヴァイツに対し大半は不信感を抱いている状態ではあったが。だがそれもギルド内ではクルスも長老もヴァイツには好意的であるし、町中でも幸い怖がられているだけでいる。
現状はなかなか上々、といったところであった。
とは言え、クルスとしてはまだ気がかりな事は残っていたのだが・・・。
(本当に悪い人じゃないんだけど・・・)
魔竜という存在。数百年を生き現在ではたった二人だけの種族。そしトその唯一の同胞は倒さねばならない宿敵であり、仇。
かの心中を察することはおろか、想像すらできないような色々な苦しみや悲しみがあり、今の彼がある。あの性格の原因の一部もそんな所が原因の一つなのかもしれない。
(やっぱり、憎しみだけで生きてるなんて、悲しいもの・・・)
ふと見上げた空は、どこまでも青く広がっていた。



「舞踏会、ですか?」
アガートにぬいぐるみを取り上げられ必死にピョンピョンと飛び跳ねていたパティは突然の事に聞いた言葉をそのまま聞き返した。
「ええ、舞踏会です」
レガーシーはパティの部屋には入らず、扉の前で背筋を伸ばし律儀に言い直した。二人のその状況にもあえて何も言わないで居るのところは流石である。
「ギルドであれだけの事があったのです。街の民も何かと不安を募らせ始めております。そこでの舞踏会。という事です」
「要するに、ここ最近不景気なニュースばかりだったからパーーッと盛り上げようって事だろ?」
「・・・・・。まあ、完結に言えば」
釈然としない表情で、二、三度口を開けたり閉じたりして何やら言いたげな素振りを見せ、それでもレガーシーは姿勢は崩さず続ける。
「女王様も賛成しておりますし、先程ギルドのギルバード長老殿に申し立てたところ、喜んでとのことだそうです」
「王家とギルド合同主催か・・・。ギルドへのフォローの意味も兼ねるらしいな」
「みたいですね。それで、レガーシーさん。詳しいことはもう決まっているのですか?」
いつになく乗り気なパティにアガートは何となく持っていたぬいぐるみ(パティ曰く、「ゴウライジャー君」)を弄ぶ。
(王女ってモノ自体は嫌いなくせに、お祭り事は大歓迎らしいな)
レガーシーと詳しい話をしているパティを後ろから半眼で眺めているとパティがその視線に気づいたのかクルリと振り返る。
「・・・・なんだかちょっと失礼な事考えてませんでした?」
「気のせいだ」
「むぅ〜」
「んで、何時何処でやるんだ?その宴会は」
「宴会ではない。舞踏会だ」
「山賊には聞いてない」
「ぬぅ・・・おのれ、皮肉でもよいから少しは遠回せ」
レガーシーとアガートが緊張感のないにらみ合いをしていると間にパティが入り
「えっと、準備はこれからギルドのみなさんと一緒に始めるそうです。騎士団とギルドの団員が警備に入って、王家敷地内の大型ホールでやるそうで、開催は明後日の夕方からだそうですよ」
「ちなみに招待状がなければ入れぬからな」
レガーシーが横目でアガートを睨む。だがパティはそんなことにも気づかずニコニコ顔でヒョイとアガートの手からぬいぐるみを取り抱き締める。
「アガートさんにもちゃんと招待状はお渡ししますからご安心を」
「いや、何も言ってないぞ?」
「えっ?来ないんですか、アガートさんは」
「ゴチャゴチャした所は好きじゃないんだよ、俺は」
「うむ、来るな来るな」
「山賊が舞踏会にいる方が雰囲気ブッ壊しだ」
「もう山賊で定着させおったか、貴様」
「ああ、もう。レガーシーさんもつっかからないで」
パティがレガーシーの背中を押し部屋から遠ざける」
「ひ、姫様!このような輩の方を味方すると言うのですか!?」
「レガーシーさん、アガートさんに意地悪すると嫌いになっちゃいますよ?」
「ひ、姫!私は別に・・・・」
バタムッ
レガーシーの姿が扉によって消える。何か言っていた途中だったようだが、扉を止められレガーシーもそれ以上は何も言わずしばらくすると何処か覇気のない足音が遠ざかっていくのが聞こえた。
「・・・不憫な」
「私、ぬいぐるみ踏んでないですよ?」
「いや、違うって」
片手を顔の前でパタパタと振るアガート。そこでふと思い返し口を開く。
「そう言えば、明後日って言ったが、随分早いんだな。準備とかは間に合うのか?」
もっともな質問である。普通に考えても首都で、しかもギルド、王家合同での舞踏会と言えば壮大なものになる。準備だけでも10日以上はかかるだろう。
「あ、それは簡単です。元々舞踏会の話は進んでたんですよ。ただギルドで大きな事件が起こってそれどころじゃなくなっただけで、準備は前からしてあったんです」
「・・・宝玉強奪事件、か」
思い出すように小さく呟くアガート。そしてソファーにかけてあったコートを持ち上げ袖を通す。
「あれ、何処かお出かけですか?」
「帰るんだよ、何時までもここにいる訳にもいかないしな」
「そんなの気にしませんよ」
いそいそと帰り支度をするアガートにパティはぬいぐるみをブンブンと振り回しながら訴える。
「君が気にしなくても俺みたいな部外者が王城に長居するのを好ましく思わないだろう、騎士団なんかは、特にな」
ぬいぐるみの腕が引きちぎれるのではないかと内心密かに心配しながらもアガートは荷物を纏め扉に向かう。
「・・・一応、舞踏会には顔を出す。ボウスシェイバーにはまだしばらく居るから」
「仕方ないです、残念だけど。では招待状は宿に届けさせますので」
「ああ」
素っ気なく答えるとヒラヒラと手を振りアガートはその部屋の扉を開け出ていく。
背後でパティが名残惜しそうな視線を送っていたが流石にアガートもいつまでも王女の遊び相手をしているつもりは無かった。
彼にもやるべき事があり、信念がある。
(あのぬいぐるみは少々心配だがな・・・)
ふと、そんな事が頭に思い浮かんだ。



クルスは団員寮の一室の前で一度咳払いし、コンコンと軽く扉を叩く。
「ヴァイツさん、入っても良いですか?」
返事が返ってくる事はあまり期待していなかったため、クルスはしばらく間をおくと扉を開けた。幸い鍵もかけられてはいなかった。
「失礼します」
そう一言置いてクルスは部屋に足を踏み入れた。
あまり広くも無い部屋の中はベッドと小さなクローゼット。後は申し訳程度に窓にカーテンがあるだけの何とも殺風景な代物であった。
そのベッドの上で壁にもたれ掛かりながらぼんやりと窓の外を眺めているヴァイツに歩み寄るクルス。既にクルスはヴァイツに対し警戒心は持っていなかった。それは本人にも不思議だったが、実際持っていないのだからどうしようもない。
「昼食、まだですよね。適当に持ってきたんで、よかったらどうぞ」
「・・・」
ヴァイツはそこでようやくクルスの方に顔を向け、クルスが持っている物を目にし、鋭い眼差しを少しだけ開かせた。
「・・・なんだ、それ」
「え?ああ、これですか?ボウスシェイバーで一番人気のパン屋があるんですよ。『クロケット』って言うお店なんですけど、そこのコロッケパンです」
「それ、全部・・・か?」
クロスが持ってきたのは大きな袋にパンパンに詰まったコロッケパンであった。しかも袋は2つ3つとある。
「人気商品なんですぐ売り切れてしまうんで、急いで買ってきました。もう他の皆さんの分は渡してありますから」
では一体どれだけの量を買ってきたのだろう・・・。思わずそんな考えがよぎるヴァイツは袋に手を伸ばしその中からパンを一つ取り出す。
ほんのりとした暖かさが手のひらに伝わり、ふっくらとした焼きたてのパンとサクサクのコロッケの感触がよく分かる。適度なソースの香りと焼きたて、揚げたてのパンとコロッケの香ばしさが食欲をそそる一品である。
何となく、そのまま一口パンを囓るヴァイツ。更に何となくその様子を見ているクルス。少し間をおいてからヴァイツがゆっくりと口を開いた。
「・・・・美味い」
「本当ですか?魔竜族の方は人間と同じ食べ物でいいのかちょっと不安だったんですよ」
「同じだ、魔竜だろうが魔族だろうが物を食べるのは変わらない」
「少し、安心しました。食べてもらえなかったらどうしようかと」
「・・・」
少しだけ表情を緩め微笑を浮かべるクルスにもしかして、自分はこの嫌がらせのような膨大な量を食べなくてはならないのだろうか?などと逆な不安を感じてしまう。クルスはそんなヴァイツの心中を察したようにクスリと微笑み
「大丈夫ですよ。無理に全部食べていただこうなんて思っていません。私もまだ昼食は取っていないので」
「ここで食べるつもりなのか?」
「あっ、迷惑なら余所に・・・」
「いや・・・まあ、別に構わないが」
普段通りの愛想の欠片も無い態度ではあるが、クルスはヴァイツがこうして僅かでも自分と喋ってくれる事だけで満足だった。
ヴァイツの心の闇。それはクルスには、いや、誰にも推し量れる物ではないだろう。
(少しずつでもいい。時間は掛かるかもしれないけど・・・)
コロッケパンを手にクルスはヴァイツのベッドに腰掛ける。
「ヴァイツさんはこんな平和な日常は嫌いですか?」
「平和に越した事は無いさ。だが・・・」
ヴァイツはいったん言葉を止め、瞳を細め外の景色を睨む。クルスはヴァイツの言葉を待たず、更に続ける。
「もしかしてヴァイツさん・・・。『復讐が終わったら生きている意味はない』なんて、言わないですよね」
恐る恐るそんな事を質問してみる。刹那的なヴァイツの生き方にクルスが前から抱いていた不安であった。だがヴァイツはそんなクルスを横目で眺めコロッケパンを一口囓る。
「さあな・・・。全てが終わってからでないと、先のことは分からないが・・・。俺は自分の命を捨てるほど退屈はしていない」
「退屈・・・ですか?」
「魔竜族は戦いだけの日々に嫌気が刺して人として生きる道を選んだんだ。魔界ではそんな俺達は変わり者でしか無いが、俺は一族の子の生き方を『誇り』にしている。人間は恐ろしく汚いのもいればその逆もある。魔族にとって人間は無限なんだよ。何にでもなれるし、予想もできない」
「・・・」
そう語るヴァイツの顔はさっきまでの鋭さも影を潜めほんの少しだけ柔らかなものであった。
ヴァイツはクルスがこっちを見ながら微笑んでいるのに気づくとスッといつもの無愛想面に戻る。
「・・・何だ、ニヤニヤして」
「いいえ、ただ・・・」
クルスはそう言いながらもコロッケパンを手に笑っていた。普段生真面目であまり融通も利かず実直なクルスからは想像できないような年相応の少女の笑顔だった。
「ヴァイツさんがこんなに喋ってくれたのは、初めてだな、って。そう思っただけです」
「・・・」
クスクスと楽しそうにコロッケパンを頬張るクルスをヴァイツは不思議そうに眺めてるだけだった。



時を同じく、ルシア達はキャリーの希望もあり王都の観光を続けていた。心配していた宿もカリンのお陰で割安にしてもらえた為である。
「一体どんな手を使ったんだか」
一通り繁華街を回り終えたところでルシアがポツリと呟く。
「いいじゃない、お陰でこんなにゆっくり色んな所見て回れてるんだから」
「そうだぞ、カリンさんに感謝しろ」
元々カリンと仲のいいキャリーはともかく、ロナードもすっかりカリンに懐いていた。
「いいのよ、こいつはひねくれまくってんだから。まあ、素直なルシアなんて怖くて考えただけで爆笑しちゃうけど」
心底楽しそうに一人後ろかに3人についていくように歩いているルシアを振り返る。すっかり孤立無援のルシアだった。
「さぁさぁ、あんな悪徳居候なんて放っといて次行きましょうカリンさん」
そう言ってロナードはカリンの手を取りその上にそっと自分の手を置く。カリンも別段嫌がるそぶりも見せず逆に楽しそうなノリである。
「クルスさんの時と言い、ロナードさんってああいう人よね、根っから」
「っつーか誰が悪徳居候だこらっ!!」
ロナードと組んでからすっかりぼやきが多くなったキャリーとルシアにカリンが手招きする。
「はいはい怒らない怒らないルーちゃんも」
「ルーちゃん言うなぁ!!」
「キャリーもほら、早くしないと置いてっちゃうわよ?」
「え、何処に行くんですか?」
「ふっふっふ・・よくぞ聞いてくれました」
顎に手を置き不敵な笑みを浮かべるカリン。
「いいからとっとと言えや」
ズボンのポケットに手を突っ込み冷たく言い放つルシア。
「もう、こういうのはノリが大事なのよ、ノリが」
「そうだぞ、カリンさんの言うとおりだ」
「お前は黙ってろ、話が進まねぇだろが!」

ゴスッ!!

「ごはぁ・・・・!」
ロングソードの鞘で殴られたロナードがその場で倒れ伏せる。
「えっと、このお店?」
ルシア達のやり取りに慣れているキャリーは冷静に目の前の店を見上げる。
「カレー屋かよ、これまた随分カリンらしいと言えばらしいところだな」
「ここのカレーはそんじょそこらのカレーとはひと味もふた味も違うのよ。まあ、お勧めだから安心してよ、ちょうどお昼時だしね」
そう言いながら早速店の扉を開け中に入っていくカリン。
「本当に王都の事詳しいよね、カリンさんって」
「よっぽど暇なんだろ?」
カリンに続きキャリーと、いまだに昏倒しているロナードを引きずりながらルシアも店内に入っていく。カウンター席でカリンは既に4つの椅子をキープしていた。
「ルシアてめぇ・・・いつか覚えとれ・・・」
フラフラと頭を振りながらロナードがちゃっかりカリンの隣りに腰掛ける。その横にルシア、キャリーと並ぶ。
「刃で殴らなかっただけ有り難く思われたいぐらいだ」
「死ぬわっ!物凄〜〜っくあっさり死ねるわっ!!」
「むしろ一度ぐらい死ね、お前は」
「はいはい、二人ともいいから注文しなさいよ」
カリンがルシアとロナードにメニューを渡す。
「まったく・・・。悪徳ルーちゃんに対しカリンさんは本当にお優しい・・・。もしこの世に女神がいたとしたら、きっと貴女のようなお人なんでしょうね」
「あら、口が上手いのねぇ。お姉さん安くないわよ?」
どうやらカリンはロナードとは相性が良いらしい。(ロナードで遊んでいるようにも見えるが)
「口説くならご飯の後にしようよ、ロナードさん」
「てめぇこそ、後で覚えてやがれ」
「どうでもいいけどお客さん、注文いいかい?」
カウンターの中からヒゲ面の店主が申し訳なさそうに顔を出す。
「あ、チキンカレー辛口。トッピングはコーンとほうれん草とエビフライで」
「俺はビーフカレーの中辛で。チーズとクリームコロッケ付き」
「うきゅっ、じゃあ私はポークカレー甘口。トッピングは生卵とソースとシーフードとジャム」
「あ〜、んじゃ俺はチキンカレー激辛で。ハンバーグとゆで卵トッピングでよろしく」
「「あ、あとネギアイス一つ」」
「ノォォッ!?」
思い切り奇声を上げ慌てるロナード。だがルシアもカリンもニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべロナードに振り返る。
「うきゅ・・・思い切りイジメだよね、これ・・・。」
一通り注文を終え、料理が運ばれてくると再び他愛ない会話が始まる。
「そう言えば明後日舞踏会があるんだって、王城のホールで」
「ふーん・・・」
「あれ、ルシア興味ないの?」
「あのなあ・・・関係ねぇだろ。王家の舞踏会なんざ俺等には」
スプーンをキャリーにつきつけルシアが呆れ顔で嘆息する。一方のキャリーは何故かライスにオレンジジュースをかけてカレーと混ぜていたりする。
「うきゅ〜・・・でもなんだか楽しそうでいいと思わない?」
「思わない」
「ルシアのケチ」
「何でだよ」
「キャリー、舞踏会行きたいの?」
カリンが横から口を挟む。
「なんだよ、カボチャの馬車でも出すのか?カリン」
「行きたいなら招待状あげるけど」
「カボチャの招待状か?・・・って、なんで持ってんだよ!!」
思わず立ち上がるルシア。ちなみにその際飛び跳ねたカレーがロナードに降りかかる。
「熱ぃっ!目に入った、目に!!」
隣で藻掻き苦しむロナードは無視しカリンはいたって平然とした態度のまま
「まあ、ちょっとしたコネがあってね。3人分なら大丈夫よ」
「うきゅ、そんなあっさりと・・・」
「行きたいの?行きたくないの?」
「うきゅう〜・・・・行きたい」
キャリーの言葉にカリンはニンマリと笑みを浮かべる。
「よし、じゃあ決まりね。ルーちゃんとロナード君もいいでしょ?」
「ルーちゃんはやめろ!それに俺は別に・・・」
「ええ、行きます。行きますとも!」
横からルシアの口を押さえつけるロナード。
「それじゃ明日、宿屋に持ってくから待ってて。大丈夫よ、別に偽造なんかしないって」
((言えない・・・今一瞬そう思ったなんて・・・))
ルシアとキャリーが思わず顔を見合わせる。


余談だがこの後ネギアイスが運ばれて来て逃げようとしたロナードをルシアが押さえつけその口にカリンが強引にアイスを放り込み絶叫させたのは言うまでもない。
「なんでカレー屋にネギアイスなんてあるんだ?」
「さあ・・・」




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