「ラストソング」 〜第十五話 「鋼の風」〜



 クライムの森。
 ほとんど開拓されておらず、中には野生の魔獣も多く生息しているため一般では立ち入り禁止区域とされている王城の後ろにある森である。
 道らしき道も無く、迂闊に迷い込めば生きて出られる確率も低いほどの天然の迷宮のような場所であり、密林に慣れた者にとっては、これ以上無い格好の隠れ家にもなる。
「なるほどね・・・。なかなか周到な誘拐ってわけだ」
 森に入ったアガートは腰まで届く草を掻き分け、茨を切り裂きながら進んでいく。途中何度もコートに枝が引っかかるが、気にしている場合ではない。
「ワザワザこんなところに逃げ込むとは、新手の嫌がらせかかなりのキレ者か・・・」
 今のところアガート一人がこの森に入ったようで、周りには何の気配も感じられない。本来ならば野生の魔獣が何時襲い掛かってきてもおかしくはないのだが、この静けさはかえって不穏である。
(魔術で魔獣を抑制している・・・? ただのテロリストがそんなマネが出来るのか?)
 王女を連れ去った手段、方法は非常に鮮やかとしか言い様が無い。こうして追跡の困難な場所に逃げ込んだのも、かなり計算されている。だが・・・。
(ただのテロリストにしては、どうもおかしいな・・・。もしかしたらこの事件、そう単純なもんじゃないのかもしれないな)
 内心で次第に膨らむ疑問。そして多分、それは気のせいではないだろう。アガートは自分の中で確信しながら、地面を蹴り、更に足を進める。
「かと言って、今はあのどたばた姫を助けるのが先決だな」
 鬱蒼と茂る木々の目をくぐりながら、アガートは小さく呟いた。


 ホールに残っていたのはもう10人にも満たない人数だった。レガーシー達は国王と王妃にまずは報告を澄ませると、ホールの中にいたトレジャーハンターやギルドの団員を集めた。
「話は今のとおりだ、事態は一刻を争うことになっている。報酬は望む限り支払う所存だ」
 レガーシーは周りを見回し、集まった面々に声を上げる。
 ちなみにその場に集められたメンバーは、ルシア、キャリー、ロナード、クルス、そしてヴァイツの5名だけであった。
「おいおい・・・マジかよ」
「王家の姫がさらわれるって、ちょいと話のスケールがデカすぎないか?」
 顔を見合わせヒソヒソとルシアとロナードが顔をしかめる。普段は遺跡の探索や魔獣退治ぐらいの事しかしていないのだ。いきなり一国の王女の救出を頼まれるとは、一体誰が想像するだろう。
 だがしかし、これが普通の反応なのも確かなことである。
「クライムの森と言ったら、あの有名な天然の迷宮と言われる場所ですよね・・・。その犯人グループ、かなり念入りな計画を立てていると思って間違いないですね。そうすると・・・」
「森の中に、罠があると見て間違いないだろうな」
 一方のクルスとヴァイツは至って冷静そのものである。クルスはギルドの捜査官として今までも色々な事件を手掛けてきている。ヴァイツに至っては魔界屈指の実力を持つ魔族の王である。
 クルスは顎に手を当て、数瞬考え、素早くレガーシーに顔を上げる。
「わかりました。では私達も早急に救出に向かいます。ヴァイツさん」
 軽く頭を下げるレガーシーに会釈し、隣のヴァイツに凛とした声をかけるクルス。ヴァイツは小さく左手を振ると、漆黒の炎が手の中に走り、瞬時にして黒光りする鞘に収められた長剣が出現する。
「シュナイダー!!」
 『力ある声』に呼応し、ヴァイツに呼応するように数秒置いて王城のホールに無人のバイクが飛び込んくる。ヴァイツは素早くバイクにまたがると剣を腰のベルトにはめ込む。クルスもヴァイツの後ろに乗ると、合図を待たずにバイクが猛スピードで森へと走っていった。
「・・・流石、と言うかなんつーか・・・」
 みるみるうちに姿が見えなくなった二人を無言で見送りながら、ポツリとルシアが呟く。
「あれ、魔剣だろ、確か。持ち主を選び、どこからでもやってくるって言う」
 まるで風のように去っていったヴァイツ達に、ルシアとロナードは唖然とするしかなかった。
「うきゅ、私初めて見たよ、魔剣とバイク。呼べば来るんだね」
「いや、魔剣はともかくバイクは違う・・・・と、思う」
「元S級賞金首で魔剣の持ち主とは・・・。アガートも行ってるんなら、あの3人だけでも十分じゃないのか?」
「ヴァイツ・クロフォードとあの精霊士のクルスって人はわかるけど、アガートが頼りになるのか? そんな」
 のん気な声を上げるロナードに訝し気にルシアが唸ると、キャリーとロナードはそろって驚いたような視線を向ける。
「・・・? なんだよ」
「ルシア、知らないの?」
「アガート・ハーキュリーつったら、トレジャーハンターの中でも最強て噂されてる男だぜ? お前知り合いなのにそんなことも知らなかったのか?」
「いや、興味ねぇし。へぇ・・・あの仏頂面男がねぇ」
 それを聞いても大して驚いた様子を見せないルシア。本当に興味が無いのか、単に強がっているのか。
「・・・本来なら、このような一大事に貴公らのような者に頼むのは騎士団としては恥なのだが。場合が場合だ、今は猫の手も借りたい状況なのだ」
 沈痛な表情を浮かべるレガーシー。足をやられているとは言え、騎士団長である彼一人が行動できず、こうして一介のハンターに頼むというのは、一体どのような心境なのだろう。ルシアも思わず、レガーシーのそんな顔を見られず、顔を背ける。
「・・・ロナード」
「んぁ?」
「いくぜ、俺たちも」
「行くって・・・お姫様お助け大作戦にか?」
「ああ」
 さきほどとは打って変わったルシアの声に、ロナードのおどけた表情をフッと消す。
「どうしたよ、いきなり。お前のことだからこういうドデカい物事には乗らないと思ったんだけど。金目当て、てか?」
「るせぇ。まあ・・・なんとなくだよ、なんとなく」
「ま、いいけどよ。俺は無事お姫様を助けて報酬がっぽりもらえれば。ついでにそのままお姫様との身分を越えた禁断のロマンスなんかあったりしたら、もう言う事・・・」
「身分が、どうした?」
「・・・・いえ、なんでもないです」
 セリフの途中でレガーシーの睨み殺すような視線を感じ口を閉じるロナード。
「うきゅ、じゃあ早く行こう。早くしないとお姫様殺されちゃうかもだし」
「いんや、お前はここでお留守番だ、キャリー」
 既に普段の服装に戻り肩からカバンを提げ準備していたキャリーにピシャリと言い放つ。
「何でっ! 私だけ仲間はずれ?」
「クライムの森は遺跡より危険なんだ、お前を守りながらできる仕事じゃねぇしな」
「素直に心配だから、て言えないのかねぇ、この男は」
「黙りゃっ」
 メキッ!!
「あぎちょっ!!」
口を滑らせたロナードの脳天に無造作にロングソードの鞘が振り下ろされた。ロナードはそのままフラフラとその場に崩れ落ちる。どうも彼には一言多いと自覚が無いようだ。
「・・・いいからここで待ってろ。別に足手まといだなんて思ってねぇよ、ただ・・・」
「ただ、何?」
 不服なキャリーは頬を膨らせながら、ジッとルシアを睨む。もっとも、あまり迫力は無いのだが・・・
「・・・・やかましい、黙っておとなしく留守番してやがれ!」
「うきゅっ!? 酷いっ!!」
「うるせっ! いくぞロナード! いつまで死んでんだよ」
「お、お前がしたんだろうが・・・・」
 頭を抑えながら引きずられるようにロナードが立ち上がる。彼はそのまま未だに不服そうに唸っているキャリーにそっと耳打ちする。
「なんだかんだで心配なんだよ。あいつも。すぐに助け出してくるから、今回は待っててくれないかな、ね」
「うきゅ・・・」
「ほら、余計な事は言わんでいい」
「へぇへぇ、じゃ、チャチャッと解決してくるねーーっ」
 ズルズルとルシアに引きずられながらロナードがキャリーにパタパタと手を振る。しばらくして、二人の姿も見えなくなった。
「・・・・」
「今の自分が不服か?」
 不満が残るきゃに、不意にレガーシーが声をかけた。
「守られるだけの立場は、お嬢さんも辛いだろうが。無理をすれば本当に足を引っ張ることになる。
 今、そこで自分の出来ることをできるかどうか、大事なのはそういうことだ」
「・・・・はい」
 思わぬところからのフォローにキャリーも少しだけ顔を緩める。
「騎士団長さん、顔は山賊みたいですけど優しいんですね」
「・・・・・」
 今度は、レガーシーが不服そうに言葉をなくした。


 全く人の手が入っていない森の中は、道というもの自体が存在せず、ただ木々の間を縫うように進むしかない状態であった。
 だが、そんな地形も物ともせず、漆黒のボディを開かせ、一台のバイクが風のように木々を掻い潜り突き進んでいく。
「ヴァ、ヴァイツさんっ!? も、もうちょっとスピードを・・・」
「一刻を争う事態だろ」
「で、ですが・・・あうっ。このスピードで激突でも・・・したら・・・っ!」
 クルスは必死にヴァイツの背中にしがみ付きながら声を上げる。実際、今バイクのスピードは周りの木が一瞬で視界から消えていくほどなのだ。
「なんなら、もう少し飛ばすか?」
「飛ばさないでくださいっ!」
 クルスが懸命に悲鳴のような声を上げる。ヴァイツはヴァイツで、相変わらずの仏頂面だったが・・。
 不意に、彼の瞳が細められる。
「・・・どうやら、そうもいかないようだな」
「え?・・・ひゃあっ!」
 いきなりアクセルを握り締めスピードを上げるヴァイツ。突然の加速にクルスの体が後ろへと引っ張られた。
「・・・来るぞ」
 ハンドルをきり、車体を低くしながらカーブする。次の瞬間木の上から2つの人影がバイクの進行方向だった場所に落下してきた。
「ま、魔獣・・!」
「・・・スケロスか。厄介だな」
 現れた人影、正確には人ではないのだが・・・。二本の足で地を踏みしめ、両手から伸びる鋭利な爪と犬のような上半身。口元からは獰猛な唸り声が聞こえる。
疾走獣(スケロス)・・・。ハイエナの特質を持つと言われる中級魔獣。そのスピードは知覚するのも困難と言われるという・・・」
「ご明察。流石に詳しいな。」
 バイクは未だにかなりのスピードで走っているのにもかかわらず、2匹のスケロスはほとんど同じスピードで並走している。
(しかしスケロスは元々魔界にのみ生息している魔獣・・・。こんなところにいるはずは・・・)
「どうします。振り切るのは困難ですよ」
 思考を遮る様に後ろからクルスが声を張り上げる。
「無論、戦う。このままな・・・」
「このまま? って・・・ま、またぁっっ!!」
 もはや周りの木など形が分からないほどスピードを上げ、バイクが疾走する。クルスは慌てて両手でヴァイツの腰を抱き、しがみ付く。
「こ、これじゃ戦えませんよ・・・!」
「そうでもないさ」
 ハンドルを操作し、片方のスケロスへと機体を寄せる。それに気づいた魔獣も、鋭い爪を立て、シュナイダーへと飛び掛る。
「っ!」
 クルスはベルトの後ろに畳みセットしていた戦斧を取り出そうとするものの、あまりのスピードと強風で視界もままならない。
 だが、ヴァイツは落ち着いて左腰に携えた魔剣を右手で掴み、左手でハンドルを操作しながら刃を振るう。

  ブォンッ!!

 風の抵抗すら感じさせない、文字通り風を切るような一閃が、スケロスを横一文字に切り裂いた。
「ォォォォオオオオオオ・・・・っ!!」
 断末魔の咆哮を上げ、ゆっくりとスケロスの体が上下に別れる。それと同時に切り口から黒い炎が上がり、すぐに跡形もなくその身が消滅した。
「まずは一匹」
「す、すごい・・・」
ヴァイツは片手で剣、もう片方の手でハンドルを持ちながら器用に木を掻い潜り運転を続ける。
(この人・・・魔竜だからでも、魔力でもなく・・・単純な剣技だけでも強い・・物凄く)
「来るぞ、しっかり捕まっていろ」
「は、はいっ!」
 息もつまるようなスピードにクルスはヴァイツの腰に回した手に力を更に込める。もう一匹のスケロスも仲間を倒され尚更こちらに襲い掛かってこようと距離を詰めてくる。
猛スピードの攻防が続く中、不意にクルスの視界に森が開かれ、道が途切れているのが飛び込んできた
「ヴァイツさん、ま、前っ!! 道が・・・!」
 クルスの声が聞こえないわけではないのだろうが、それでもヴァイツはアクセルを更に噴かせる。
 目の前は既に木々が途切れ、切り裂かれたような崖が広がっていた。
「捕まってろ、しっかりと」
「でも、これじゃ落ちて・・・・って・・・」
 そう言い終える前に突然の浮遊感。バイクがそのまま、崖に飛び出したのだ。
「っ・・・!」
 慌ててクルスが崖の断面の岩や地を操ろうと頭の中で構成を練る。崖は思いのほか深く、遙か下からは川があるのか、水の音まで聞こえる。
(駄目、間に合わない・・・!)
 側面の大地が盛り上がり橋のようにクルス達に迫ってくる。だが、それよりも早く期待は落下していく・・・。
 次の瞬間、バイクの後輪部分のマフラーが翼のように展開し、横に開くと前輪と後輪が水平に倒れる。
 そして、突然浮遊感が止まった。
「・・・・え?」
 クルスもいきなりのことで何が起こったのか理解できなかったが、数秒してから、自分が乗っているバイクが「飛んでいる」ことに気が付いた。
「こ、これは・・・!?」
「言っただろう、掴まっていろって」
ヴァイツはいつもどおりの口調で答えると、空中に浮かぶ愛機の上で両足で立ち上がる。
「・・・来るぞ」
 言葉どおり、崖から飛び降りてきたスケロスが飛び掛ってくる。それも器用に崖を蹴り自在に飛び回りながら、である。
「駆け抜けろ、シュナイダー!」
「力ある声」に呼応し、漆黒のバイクが飛翔する。大きく翼を開いたその姿は正に鋼鉄の鳥のように見えた。
 爪を立てて切りかかるスケロスに剣を振るい、攻撃を止めると同時に刃を返す。バランスを崩したスケロスは向こう岸に飛び退る。
 ヴァイツは翼を開き飛翔する愛機の上で立ち上がりバランス一つ崩さず剣を構えたまま油断せずに退いたスケロスを睨み続ける。
「ウォォオオ・・・ッ!!」
 低い唸り声を上げ、体制を低くし目にも留まらぬスピードで襲い掛かってくる。シュナイダーも同時に崖の向こう側へと降りると再び車輪を倒し翼を閉じ、元の姿へと戻る。
「剣牙・・・」
 シルヴァイザーの薄黒い刀身に魔力が纏われる。刃を携えた右腕を引く。その間もどんどんと距離は詰まっていく。
「オオオオオオオオッ!!」
 獰猛な叫びと共に牙を剥き、両腕を振り上げ野犬のように飛び上がるスケロス。ヴァイツは一切慌てることなく、冷静に、静かに、凶暴な牙を振り下ろした。
「風冥刃っ!!」
 魔力を帯びた鎌鼬と突風の織り交ぜられた疾風が真正面からスケロスを捕らえ、その身体をズタズタに切り裂いていく。
「オオ・・・ウォォオオオッ!!」
 断末魔の声をあげ、スケロスが塵となっていく。
「・・・いくぞ。少し時間を食った」
「何だか、いい加減驚き疲れましたよ」
「・・・?」
 何故か呆れ顔のクルスに微かに怪訝そうに眉をひそめ、ヴァイツは再びハンドルを握りバイクを走り出させた。

「未開の森だってのは聞いてる。多少は覚悟してたさ、そりゃあな」
「・・・」
「だからってよ、限度ってもんがあるだろ。限度って。責任者は誰だぁっ!!」
「・・・」
「道も無いのにどこをどう探せっちゅーんだよ、いるのは魔獣ばっかだし、微妙に熱いし、腹は減ってきたし。連れは男だし」
「黙れ」

  ゴスッ!!

 ルシアがロングソードの鞘でロナードの首筋を打ち据えた。
「て、てめ・・・下手したら一撃死してるぞ、おいっ!」
「死ねよ」
「姫様助けに来てなんで仲間に殺されなきゃならねんだっ!?」
 ルシアとロナードも時を同じくして、クライムの森へと入っていた。完全徒歩な二人は早速道に迷い、この原生林を彷徨っていたのだ。
「少しは黙れねぇのか? ただでさえイライラする状況で喚くな、イライラ増量中だぞ俺は今」
「安心しろ、そろそろタイムサービスの時間だ、イライラも割引なるだろ」
「残念だがたったいま閉店した」
「心の狭い店舗だな、おい」
「おかげで最近経営不振だ」
 状況が状況なのか、いつも以上に軽口が弾む二人。気を紛らわせているつもりなのだろうが。
「ギルドの団員とアガートはもう先に行ってるんだろ。もしかしたら犯人捕らえて全部片付いてるかも知れないぜ?」
「ああ、そうかもなあ」
「だ・と・し・た・ら、だ。俺のこの苦労は何か、全部水の泡じゃないか。一国の王女との夢のロマンスも文字通り夢オチ!?」
「俺だって苦労してるしまだ片付いてるとは決まってない上に夢オチの意味が違う」
「判ってないなあルシア、こういうのは・・・・と」
 ロナードは肩をすくめ口を開き・・・途中でセリフを飲み込み前方の気配に視線を向ける。
「どうやら、退屈はせずにすみそうだな」
「ご丁寧に、こりゃ魔獣の気配じゃねぇぞ」
 ルシアは腰に下げたロングソードを抜き放ち、ロナードも愛用の槍を包んでいる布を引き剥がし脇に構える。
「・・・どうやら、なかなかの使い手のようだな、こちらの気配に気づくとは」
「これでも多少は隠してたつみりなんだがなぁ」
 数メートル先の視界もままならない密林の中、茂る草を掻き分け現れたのは二人の男だった。
 一人はざんばらの炎のような赤髪に網状のベストを肌から着込んだ野性的な風貌の男だった。髪留めと瞳はギラギラと金色に輝き腰には片手用のハンドアクスが下げられている。
 もう一人は正反対に緑色の帽子を逆向きに被った青髪のシャープな印象の男だった。こちらも獲物まで反対にミドルスピアを携えている。
「退屈せずに済みそうなのはお互い様だな、せいぜい楽しもうや、なあ」
「楽しむ前に仕事はキチンとこなせよ、ランザー。足止めで済ますか、殺すかは別としてな」
 青髪の男がスピアをゆっくりと掲げる。赤髪の男も腰の両側のホルスターからハンドアクスを抜き放ち両手に振りかざす。
「ランザー? ・・・もしかして、ランザー・ドラゴードかよ」
「知り合いか? ナンパマン」
「誰がだっ! その筋では結構有名だぜ、普通のハンターとは違い汚い仕事も平気でこなす凄腕のコンビってな、っつーことは・・・そっちの細身の兄ちゃんが相棒のナイブス・レイダーってわけだ」
「ご明察。我々もそれなりに名が知れているようだな」
「嬉しいねぇ。アイドル気分てか、なあレイダー」
「考え無しに暴れまわる相棒を持つ私の苦労も一度ぐらいは察してほしいものだがな」
「んで、今回のお宅らの仕事が、これかい?」
 ロナードが一歩足を踏み出す。それに対しレイダーも手に携えたスピアの切っ先を向け、軽く口の端を歪める。笑っているつもりなのだろうか、もしそれが笑顔だとしたらこれ以上無いシニカルな笑顔だ。
「テログループの一員、というわけだはないのだがな。手伝いといったところか」
「俺ら別に王族なんかに興味ねぇしな、どっちかと言っちゃあ誘拐なんてつまんねぇ仕事にも」
「けど、実際加担してる時点で同罪だぜ」
 それまで言葉を抑えていたルシアもロナードに並び一歩前に出る。
「まあなぁ。それで、あんた達はあの嬢ちゃんを助けに来た。つまり、俺らは敵だ?」
 ランザーのハンドアクスがギラリと日の光を反射する。
「判りやすいな、んじゃ・・・」
「とっとと退いてもらうか、なぁっ!」
 ルシアとロナードがほぼ同時に地を蹴り刃を構え突進する。
 ルシアのロングソードとランザーのハンドアクスが、ロナードの槍とレイダーのスピアが、それぞれぶつかり合い火花を散らす。
「ほぅ・・・なかなか」
「楽しませてくれよぉ!」
 密林の中で4つの影が激しくぶつかり合い、交錯する。
 突然響いた怒号に驚いた鳥たちが一斉に飛び立ち、4人の頭上に雨のように木の葉が舞い降りた・・・



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