「大分時間食っちまったなあ、もう姫さん救われてるんじゃないの?」
膝まで届く雑草を掻き分けながら道らしい道も無い森の中をルシアとロナードは突き進んでいた。
先ほどのランザー、レイダーの襲撃からかれこれ数十分。未だに人の気配の一つも無い。
「さあな、それはそれでいいことだろ」
「けどよ、折角だから俺たちが助けたいじゃないか。囚われの王女。颯爽と救いの手を差し伸べる白馬の王子。このシチュエーションに燃えなくて何が男と言えようか、否。断じて否っ!」
「あーうっさい。お前のどこが白馬の王子だ。せいぜいカレーの王子様ってとこだな」
「おいおいっ言うにことかいて子供用食品扱いかよっ!!」
手に持った槍を振り回しながら、先を行くルシアの背中に声を張り上げる。ちなみに普段から包んでいる槍の布は今は巻いていない。戦闘後巻こうとしたが布を広げると森の木々の枝に引っかかり上手く包めなかったのだ。
「誰が助けたって構いやしねーって。そりゃまあ、報酬は俺だってほしい。切実にな」
「エンゲル係数しか増やさない居候の身だもんなあ」
「居候じゃねぇっ!!お前みたいに住所不確定な半ホームレスに言われたくはねぇぞ!」
「何を言うかこの貴公子に向かって」
「誰が貴公子だ、あまり騒いでると夜中にお前の槍を長ネギとすりかえるぞ」
「申し訳ございません」
ルシアのセリフが終わる前にロナードの額は地面にこすり付けられていた。
「土下座まですることはないだろ・・・」
「貴様に何がわかる、ネギの恐怖、そしてあの日の惨劇・・・とまあ、ショートコントはさておいて」
不意に、ロナードが顔つきを引き締める。まだ短い付き合いだが、ルシアはこの男が案外根は真面目なタイプだと言うのと何となく察していた。
「なんだよカレーの貴公子」
「混ぜるな混ぜるな。てか、ちょいと気になったことがあってな」
「だからなんだよ」
ロナードはふむ、と軽く顎に手を当てて視線をそらし、
「アガート・ハーキュリーだよな、確か真っ先にこの森に入ってったのは。」
「ああ、実に信じられないがあんな超絶陰険ネクラ男でもハンターの世界では名を知らない者はいないとまで言われる奴なんだがな」
「物凄い言い方だが、まあいいや。確かに俺も知ってる。話を聞いたけどよ、そのアガートは報酬の話も出ていない時点で救出に行ったんだとさ。もしかしてさらわれたお姫様と何か関係でもあるのかな、と思ったりした訳よ」
「まさか、どうせ一番早く手柄取って報酬せしめる腹積もりだったんだろ、それぐらい計算するだろ」
「ふむ、やっぱりそうなのかねぇ・・・」
ルシアの言葉に納得したように頷くロナード。だが、その顔にはまだ疑問が微かに拭えていなかった。
「どうするつもりですか・・・もうそろそろ救出隊が来てもおかしくない頃ですよ」
森の奥深くのさびれた小屋の中で、縛られたままパティが目の前で暇そうに木箱に腰掛けている男に声をかける。
男の名はロイド。自分を誘拐したテロリストグループのリーダーらしい。もちろん、その誘拐された自分の身は今、非常に危険な位置にあるのだが。
「あの会場にはアガート・ハーキュリーやギルドの団員もいたんですよ。きっと今頃すぐそこまできているはずです」
自分は王女。その自分の立場が、かろうじてこうして言葉を発するだけの勇気を支えていた。事実口を動かしていながら、その膝はまだ震えが止まっていない。自分は動けない、逃げられない。彼が今すぐでも自分の首にナイフを突き立てても、全く不思議は無いのだ。
見つけ出されるのは、死体となってからかもしれない。リアルな恐怖感が益々募っていく・・・
「そうだな、そろそろ追っ手が着いてもいい頃合だな」
テログループのリーダー、ロイドはセリフの内容とは裏腹に口調はあくまでも冷静そのものだった。
ただ、時折パティに向けられる視線に宿る言いようの無い憎悪の炎は、荒事には全く無縁の生活をしてきたパティにも、ハッキリと感じ取れた。
「仲間からの提示連絡も無い。俺以外は既に倒されているのかもな、もう。」
「な、なら・・・尚更もう終わりじゃないですか。貴方たちの目論見も。」
「そうかな?」
木箱に腰掛けたまま、手持ち無沙汰に指で膝を叩くロイド。口元を歪め笑みを浮かべる。もっとも、暗い光の灯った底冷えするような瞳のまま口だけをゆがめた表情を笑みと呼べるかは別だが。
「俺としては、王族の連中に痛い目を見せてやれればいいんだよ、気が晴れる。欲を言えばまあ、このままお姫様を盾にもっと大打撃を与えれれば言うこと無しだ」
「怨恨目的ですか・・・。でも、どうしてそこまで王族を・・・」
パティのその言葉に、ロイドは横目で彼女を睨む。その視線の鋭さに思わずビクリと体を震わせてしまうパティ。
「・・・王族ってのには、俺は・・・。俺達一族はどれだけ恨んでも恨みきれない借りがあるんだよ。知らないとは言わせねぇぜ?200年前のワイオーン攻防戦」
「・・・・っ!?」
全く予想もしていなかった単語にパティは声にならない驚嘆の声を上げる。彼女自身も文献の記録でのみだが知ってはいる、過去にあった大きな戦争のことである。
ロイドはパティの反応に僅かに満足したかのような表情を見せ、彼女の言葉を待つ。
「・・・先代のシンクレル王家フィース王族の滅亡ののちに起こった、二つの王族継承候補一族による権力争い・・・」
「そう。流石に知ってるわな。何せあの戦争を勝って、今の地位にあるわけだからな、お前らエンプレシア家は」
ロイドの口調と表情はあくまで軽く世間話でもしているようなものだったが、パティはその言葉で全てを納得できた。
この男が何故自分を狙ったのか。
何故ここまで王族を憎むのか。
「貴方は・・・」
言葉がのどまで出掛かっているのに、決定的な言葉が口から出ない。舌から口に絡む。全身を蛇のように這い回る明確な殺意に自然と口の中が渇き言葉が出てこない。
ロイドは、そんな様子をニヤニヤと笑みを浮かべ眺めていたが、不意に口を開き彼女の言葉を続ける。
「そう、俺の名前はロイド。ロイド・フィース。エンプレシア王家に敗れて一躍貴族から罪人に祭り上げられ国を追われた一族のものさ」
「なるほど・・・。これで今回の誘拐の動機はついたな」
シンクレル王城広場に設置されていた対策本部のテントの中でレガーシーはたった今届いた主犯格の素性を知ったところだった。
「目撃情報にも一致しますし、何よりこの男は数年前から不審な動きを水面下で見せていた様子です。今回の事件も、準備が整ったと判断して実行したのでしょう」
「だろうな、魔獣まで使ってくるとは・・・逆賊め、仮にも元は王族候補にあった貴族であろうに」
「でも元々先代フィース王と違って2代目達は典型的なタカ派の戦争好きだったんでしょう?だから周りはエンプレシア家を支持して、それに反対したフィース家が戦を仕掛けたって聞くけど。完全な逆恨みじゃないの、これ」
レガーシーの隣には騎士団に囲まれたテントの中で一人だけGジャンにジーパンといったラフすぎる格好の女性だった。
「そんな理屈が通じれば、この世に争いなど起こりますまい」
「まあ、そりゃそうよねぇ」
レガーシーは隣の女性を横目で睨む。彼女も、そんなことは承知してると言わんばかりに苛立たしげに自身の金髪をクシャクシャと掻き回す。
「こんなつまんないことにうちの可愛い妹を巻き込んで・・・。このツケは、高くつくわね」
「家出したっきりろくに顔も見せなかったお方のセリフではありますまいが」
「・・・」
今度はレガーシーが睨まれる番だった。
「・・・あの娘には、悪いことしたと思ってるわよ、だから・・・戻れないのよ。余計に」
「貴方に重過ぎた期待と成果を求めたのは我々です。反省はしております。だからこそ、パティソール王女には許容範囲内でなら、できる限りの自由を許しているのです」
「それも、判ってるわよ・・・。でも、それでも私が逃げたせいであの娘が負担を受けているのも事実でしょう?」
自嘲気味に彼女が微笑む。テントの中は、既に暗くなり始めた外の闇を受け薄暗くなっており、ライトに浮かぶその彼女の顔には、悲しみ、怒り、後悔、どれともつかない表情を浮かべたカリン。
『カタリナ・リン・エンプレシア』その人が映っていた。
「アガート・ハーキュリーを始め数人のハンターが先発隊として既に向かっております。わが騎士団も遅ればせながら森に突入しております。貴女はここで共に姫様の無事を待ちましょう」
「肝心なところは人任せ、っていうのは、物凄く癪だけど・・・まあ、しょうがないわよね」
「耳が痛いですな・・・」
「それにしても」
カリンはふと、テントの入り口幕を平手で押し上げ夜も更けてきた月明かりの広場を何処を見るという訳も無く、呟いた。
「よりによってやっかいなのに連れ去られたわよね・・・怨念・・・か・・・」
次回、着々と荒廃が進む世界、ファルガイア。
渡り鳥達が荒野を彷徨い各々の正義を求め銃を取るこの大地に、一人のモコモコした渡り鳥が現れた。
両手に構えるは漆黒の二丁拳銃ケルベロス。その首に光る蝶ネクタイ。ずんぐり頭にフワフワボディ!
その毛皮には銃弾は通らず、彼の前に立ちはだかるものは皆滅びの一歩を歩むのみ。
「今だっ!ハイ・コンバイン!」
「ふもっふぁーーー!!!」
『3割引き』のガーディアンに導かれるまま、彼はこの荒野に何を見るのか・・・
「ついにWAにまでネタを出したか・・・」
使えるものは親でも使います。
新発売ウェスタンRPG。「ワイルドアームズ4 着ぐるみに砂埃が入ってきます」。
来年7月発売決定!!
判ってると思うけど、嘘八百でござる。
では、次回18話、ポルグラの新曲が出ないうちに・・・。無理?