「ラストソング」 〜第十七話 「孤高の正義」〜

 

「大分時間食っちまったなあ、もう姫さん救われてるんじゃないの?」
 膝まで届く雑草を掻き分けながら道らしい道も無い森の中をルシアとロナードは突き進んでいた。
 先ほどのランザー、レイダーの襲撃からかれこれ数十分。未だに人の気配の一つも無い。
「さあな、それはそれでいいことだろ」
「けどよ、折角だから俺たちが助けたいじゃないか。囚われの王女。颯爽と救いの手を差し伸べる白馬の王子。このシチュエーションに燃えなくて何が男と言えようか、否。断じて否っ!」
「あーうっさい。お前のどこが白馬の王子だ。せいぜいカレーの王子様ってとこだな」
「おいおいっ言うにことかいて子供用食品扱いかよっ!!」
 手に持った槍を振り回しながら、先を行くルシアの背中に声を張り上げる。ちなみに普段から包んでいる槍の布は今は巻いていない。戦闘後巻こうとしたが布を広げると森の木々の枝に引っかかり上手く包めなかったのだ。
「誰が助けたって構いやしねーって。そりゃまあ、報酬は俺だってほしい。切実にな」
「エンゲル係数しか増やさない居候の身だもんなあ」
「居候じゃねぇっ!!お前みたいに住所不確定な半ホームレスに言われたくはねぇぞ!」
「何を言うかこの貴公子に向かって」
「誰が貴公子だ、あまり騒いでると夜中にお前の槍を長ネギとすりかえるぞ」
「申し訳ございません」
ルシアのセリフが終わる前にロナードの額は地面にこすり付けられていた。
「土下座まですることはないだろ・・・」
「貴様に何がわかる、ネギの恐怖、そしてあの日の惨劇・・・とまあ、ショートコントはさておいて」
 不意に、ロナードが顔つきを引き締める。まだ短い付き合いだが、ルシアはこの男が案外根は真面目なタイプだと言うのと何となく察していた。
「なんだよカレーの貴公子」
「混ぜるな混ぜるな。てか、ちょいと気になったことがあってな」
「だからなんだよ」
 ロナードはふむ、と軽く顎に手を当てて視線をそらし、
「アガート・ハーキュリーだよな、確か真っ先にこの森に入ってったのは。」
「ああ、実に信じられないがあんな超絶陰険ネクラ男でもハンターの世界では名を知らない者はいないとまで言われる奴なんだがな」
「物凄い言い方だが、まあいいや。確かに俺も知ってる。話を聞いたけどよ、そのアガートは報酬の話も出ていない時点で救出に行ったんだとさ。もしかしてさらわれたお姫様と何か関係でもあるのかな、と思ったりした訳よ」
「まさか、どうせ一番早く手柄取って報酬せしめる腹積もりだったんだろ、それぐらい計算するだろ」
「ふむ、やっぱりそうなのかねぇ・・・」
 ルシアの言葉に納得したように頷くロナード。だが、その顔にはまだ疑問が微かに拭えていなかった。




「どうするつもりですか・・・もうそろそろ救出隊が来てもおかしくない頃ですよ」
 森の奥深くのさびれた小屋の中で、縛られたままパティが目の前で暇そうに木箱に腰掛けている男に声をかける。
 男の名はロイド。自分を誘拐したテロリストグループのリーダーらしい。もちろん、その誘拐された自分の身は今、非常に危険な位置にあるのだが。
「あの会場にはアガート・ハーキュリーやギルドの団員もいたんですよ。きっと今頃すぐそこまできているはずです」
 自分は王女。その自分の立場が、かろうじてこうして言葉を発するだけの勇気を支えていた。事実口を動かしていながら、その膝はまだ震えが止まっていない。自分は動けない、逃げられない。彼が今すぐでも自分の首にナイフを突き立てても、全く不思議は無いのだ。
見つけ出されるのは、死体となってからかもしれない。リアルな恐怖感が益々募っていく・・・
「そうだな、そろそろ追っ手が着いてもいい頃合だな」
 テログループのリーダー、ロイドはセリフの内容とは裏腹に口調はあくまでも冷静そのものだった。
 ただ、時折パティに向けられる視線に宿る言いようの無い憎悪の炎は、荒事には全く無縁の生活をしてきたパティにも、ハッキリと感じ取れた。
「仲間からの提示連絡も無い。俺以外は既に倒されているのかもな、もう。」
「な、なら・・・尚更もう終わりじゃないですか。貴方たちの目論見も。」
「そうかな?」
 木箱に腰掛けたまま、手持ち無沙汰に指で膝を叩くロイド。口元を歪め笑みを浮かべる。もっとも、暗い光の灯った底冷えするような瞳のまま口だけをゆがめた表情を笑みと呼べるかは別だが。
「俺としては、王族の連中に痛い目を見せてやれればいいんだよ、気が晴れる。欲を言えばまあ、このままお姫様を盾にもっと大打撃を与えれれば言うこと無しだ」
「怨恨目的ですか・・・。でも、どうしてそこまで王族を・・・」
 パティのその言葉に、ロイドは横目で彼女を睨む。その視線の鋭さに思わずビクリと体を震わせてしまうパティ。
「・・・王族ってのには、俺は・・・。俺達一族はどれだけ恨んでも恨みきれない借りがあるんだよ。知らないとは言わせねぇぜ?200年前のワイオーン攻防戦」
「・・・・っ!?」
 全く予想もしていなかった単語にパティは声にならない驚嘆の声を上げる。彼女自身も文献の記録でのみだが知ってはいる、過去にあった大きな戦争のことである。
 ロイドはパティの反応に僅かに満足したかのような表情を見せ、彼女の言葉を待つ。
「・・・先代のシンクレル王家フィース王族の滅亡ののちに起こった、二つの王族継承候補一族による権力争い・・・」
「そう。流石に知ってるわな。何せあの戦争を勝って、今の地位にあるわけだからな、お前らエンプレシア家は」
 ロイドの口調と表情はあくまで軽く世間話でもしているようなものだったが、パティはその言葉で全てを納得できた。
 この男が何故自分を狙ったのか。
 何故ここまで王族を憎むのか。
「貴方は・・・」
 言葉がのどまで出掛かっているのに、決定的な言葉が口から出ない。舌から口に絡む。全身を蛇のように這い回る明確な殺意に自然と口の中が渇き言葉が出てこない。
 ロイドは、そんな様子をニヤニヤと笑みを浮かべ眺めていたが、不意に口を開き彼女の言葉を続ける。
「そう、俺の名前はロイド。ロイド・フィース。エンプレシア王家に敗れて一躍貴族から罪人に祭り上げられ国を追われた一族のものさ」

「なるほど・・・。これで今回の誘拐の動機はついたな」
 シンクレル王城広場に設置されていた対策本部のテントの中でレガーシーはたった今届いた主犯格の素性を知ったところだった。
「目撃情報にも一致しますし、何よりこの男は数年前から不審な動きを水面下で見せていた様子です。今回の事件も、準備が整ったと判断して実行したのでしょう」
「だろうな、魔獣まで使ってくるとは・・・逆賊め、仮にも元は王族候補にあった貴族であろうに」
「でも元々先代フィース王と違って2代目達は典型的なタカ派の戦争好きだったんでしょう?だから周りはエンプレシア家を支持して、それに反対したフィース家が戦を仕掛けたって聞くけど。完全な逆恨みじゃないの、これ」
 レガーシーの隣には騎士団に囲まれたテントの中で一人だけGジャンにジーパンといったラフすぎる格好の女性だった。
「そんな理屈が通じれば、この世に争いなど起こりますまい」
「まあ、そりゃそうよねぇ」
 レガーシーは隣の女性を横目で睨む。彼女も、そんなことは承知してると言わんばかりに苛立たしげに自身の金髪をクシャクシャと掻き回す。
「こんなつまんないことにうちの可愛い妹を巻き込んで・・・。このツケは、高くつくわね」
「家出したっきりろくに顔も見せなかったお方のセリフではありますまいが」
「・・・」
 今度はレガーシーが睨まれる番だった。
「・・・あの娘には、悪いことしたと思ってるわよ、だから・・・戻れないのよ。余計に」
「貴方に重過ぎた期待と成果を求めたのは我々です。反省はしております。だからこそ、パティソール王女には許容範囲内でなら、できる限りの自由を許しているのです」
「それも、判ってるわよ・・・。でも、それでも私が逃げたせいであの娘が負担を受けているのも事実でしょう?」
 自嘲気味に彼女が微笑む。テントの中は、既に暗くなり始めた外の闇を受け薄暗くなっており、ライトに浮かぶその彼女の顔には、悲しみ、怒り、後悔、どれともつかない表情を浮かべたカリン。
『カタリナ・リン・エンプレシア』その人が映っていた。
「アガート・ハーキュリーを始め数人のハンターが先発隊として既に向かっております。わが騎士団も遅ればせながら森に突入しております。貴女はここで共に姫様の無事を待ちましょう」
「肝心なところは人任せ、っていうのは、物凄く癪だけど・・・まあ、しょうがないわよね」
「耳が痛いですな・・・」
「それにしても」
 カリンはふと、テントの入り口幕を平手で押し上げ夜も更けてきた月明かりの広場を何処を見るという訳も無く、呟いた。
「よりによってやっかいなのに連れ去られたわよね・・・怨念・・・か・・・」




「俺らの家がやり過ぎたってのは事実さ、俺も否定はしねぇよ」
 森の奥の小屋の中、ロイドは片手に持ったナイフを弄びながら世間話でもするような口調で続ける。
「けどなあ、誰にでも理由ってもんはあるしそいつなりの正義も守るものもあるだろ?理由はどうあれ、世間がどう言おうとも、俺らの一族はお前らに滅茶苦茶にされた。事実病弱だったお袋はそのままあの敗戦後すぐに死んじまったし、親父も首吊ってくたばっちまった」
 ロイドの口調とは裏腹に、彼の表情が次第に禍々しく歪んでいくのを、パティは見逃さなかった。
 下手に口を挟めば、身動きも取れない自分は逃げることもできず殺される。刺激しないように気をつけるしかできず、彼女はただおとなしくじっと彼の話を聞いていた。
「俺も、なかなかスリリングな人生を送らせて貰えたよ。お蔭様でなぁ。一部のタカ派のために俺の家は丸々潰された。関係も無い奴らも大勢死んだ。復讐には十分な理由だろ?」
「それは・・・」
「お前さんの生まれる前の話だ、実感は無いだろうよ。まあ・・・その分尚更ムカつくんだけどな」
 ロイドがゆっくりと腰を上げる。ビクリと体を震わせパティも身構えるが、動きの取れない状態で何をしても無意味なことは分かりきっている。
「お前らの繁栄の裏で生贄の如く食い物にされ潰されてる奴らがいるんだよ。そんな犠牲の屍の上に成り立ってるんだよ、お前らシンクレルの奴らはなぁ」
 ロイドが手に持ったナイフの切っ先を突きつける。鈍く光る刃は、それ自体が彼そのもののように鋭くパティを映し出していた。
「かと言って、俺は別にお前らの言い分を聞くつもりもないけどな。ただ、気が晴れればいいのさ。嬢ちゃん殺せば少しはスッキリする。それでもって王家が騒げばざまあみろ、だ。文句は言わせねぇ。これが俺の復讐だ」
 切っ先が次第に近づく。何を言おうと口を開きかけても、何も言葉が出てこない。
 明確な死の予感。
 恐怖が言葉を出させない。耳鳴りのように耳の奥が痛む。頬を伝う汗も、それが滴り落ちた時に自分が殺されるのだろうか。助けなど・・・来ない。自分はここでこの男に殺されるのだ。
 そんな事がひっきりなしに頭を掻き回し、よぎっては消えていく。
(ああ、殺される気持ちって意外にこういうのなのかな・・・)
 場違いだとは思っていても、そんな事をふと考えてしまう。パティは、これ以上恐怖を堪え切れず目を閉じた。
(せめてもう一度ぐらい、あの人と話がしたかったな・・・)
 閉じられた視界の闇と同じ色の男。その顔を思い浮かべる前に彼女の細い喉元に冷たい突起が押し当てられた。
「さて、せいぜい苦しんでくれよ、お姫様」
 そして小屋の床に鮮血が飛び散り鈍い呻き声が響いた。




「がっ・・・・!!」
 思いもしない、目の前にいた男の声にパティが目をあけると、右肩に深々と刀の突き刺さったロイドの姿がまず飛び込んできた。
そして小屋の扉はいつの間にか開いており、何時に間に夜になっていたのか、開いた扉からも見える大きな月とその月明かりを背中に浴びて、漆黒の服に身を包んだ一人の男が立っていた。
「あっ・・・」
「テロごっこはここまでだ。観念するんだな。」
 左手で腰に下げた鞘から刀を引き抜き、男がロイドを睨む。左腰に2本下げられている鞘は今引き抜いたので2つとも空になった。つまり、ロイドの右肩に突き刺さっているのは彼が投げつけたもう1本だったのだろう。
「き、きさっ・・・まぁ・・・!!」
「アガート・・・さん・・・!」
 二人それぞれの反応。彼、アガート・ハーキュリーはパティの無事に微かに安堵の溜息を洩らし、そのままロイドに向き直る。
「諦めな。不必要な血を流すこともないだろ」
「馬鹿にするな・・・っ!!こっちには人質がいることを・・・」
 アガートの忠告をかき消しロイドが吼える。手を伸ばしパティを引き寄せようとして・・・それよりも早く袖から手の平に滑り出させた手裏剣がロイドの右手の平を貫いた。
「がぁっ!」
「人質を取るような時点で、お前らに勝ち目は無いさ・・・お仲間もとっくにお縄についている。お陰で少し時間をとったけどな」
 ロイド・フィースは決して弱い男ではない。実際騎士団長であるレガーシーを不意打ちとは言え打ち倒しているのだ。それでもアガートにとっては、ロイドでも相手にならないというのだろうか。
(こんなに強かったんだ・・・最強のハンター・・・これが、アガートさん・・・)
「パティ、少し待ってろ。すぐに片付ける」
「舐めるなぁ!!」
 ロイドが左手で腰から鞭を取り出し勢いよく足元を打ち付ける。
「俺をコケにしやがって・・・。シンクレルに一泡吹かせるまでは、こんなところで終わるかよっ!!」
 凶暴な雄叫びと共に鞭が振るわれる。狭い小屋の中を蛇の様に走り、あたりの木箱や壁が打ち砕かれていく。
「知るかよ。お前の事情なんて興味ないさ」
「言うじゃないか・・・最強のハンターさんは口も達者と見受けられる」
 左手に携えた刀を逆手に構えなおす。愛刀のもう片方は、相手の足元に落ちているのだが・・・別段彼は1本だけでも困った様子はないようだった。
「所詮はフィースの亡霊。お前の八つ当たりに構ってやるつもりは無い」
 目にも留まらぬ速度で迸る鞭を刀で受け、いなし、一歩片足を踏み出す。ロイドもひるまず手首を捻りその度に微妙な動きを受けて鞭が生き物のようにアガートに襲い掛かる。
 ロイドの猛攻を流れるように掻い潜るアガート。一発でも当たれば四肢も千切れ飛びそうな猛打の嵐にも関わらず、その表情はあくまで涼しげだ。
「亡霊で結構だ。俺は俺の正義を行うだけさっ。誰にも邪魔はさせねぇよ!!」
 ロイドの咆哮が更に力を増す。その目には明確な『狂気』の色が宿り、とても正気の人間の瞳とは思えない。もっとも、『こっち』がロイド・フィースの本当の顔なのかもしれないが・・・。
「ああそうかい。なら、俺は俺の正義で、お前を裁く」
 鞭が肩をかすめ、前髪が数本空気を切る音と共にハラリと床に切り落とされる。勢いを増す鞭打の一つが、アガートの右頬を軽くかすめ皮膚を切る。
 左手に力を込める。周囲の空気が途端に張り詰め、アガートの周りだけが、微かに熱を帯びたように揺らめき、まるで陽炎のようにゆっくりと大気が呻き始める。
「・・・『龍炎刃』・・・っ!」
 逆手に構えられた刀を勢いよく振り上げる。『気』によって強化された斬撃が地面を抉りながら一直線に走り、増幅された摩擦に衝撃波が熱を帯びまるで大地を引き裂き迸る炎の如く、ロイド左肩口から縦一文字に切り上げた。
「がっ・・・!!はっ、あ・・・・!!」
 血を撒き散らしながら鞭を手放し倒れるロイド。炎の斬撃はそのまま彼の背後、小屋の壁をも切り裂き床に大きな爪跡を残し燻っている。
「言っただろ・・・すぐ片付くってな」
 アガートは床に転がっていた刀を拾い2本を鞘に収めると、肩口から深々と切り裂かれたロイドを見下し容赦も無く言い放つ。
「半身斬り落ちなかっただけ運が良かったな。大人しくしてたら、止血ぐらいはしてやるよ」
パティのところへ駆けつけようと足を踏み出して・・・思いとどまり、大量の血を流し苦しむロイドの背中に言葉を続ける。
「お前の言い分はどう取り繕っても言い訳止まりだ。人質という手を選んだ時点で、お前はかつてのフィース家の連中と何も変わらない」
「・・・・っ!!」
「正義なんて薄っぺらいもんさ。人それぞれその意味も価値も違うんだしな。」
「な、ら・・・。お前の『正義』ってのは、なんなんだよ・・アガート・ハーキュリー・・!!」
 呻き半分、ロイドが言葉を搾り出す。アガートは首だけ振り返り、決して誇るようでもなく、偉ぶる訳でもなく淡白なまでに一言だけ、言い捨てた。
「ポリシーだよ」
「・・・?」
 そういうとアガートはそのまま小屋の隅にいたパティに歩み寄り、膝を突いて目線をあわせパティの戒めをほどいてやる。
「あ、ありがとう、ございます・・・」
「これで助けるのは2度目だな」
「う・・・」
 言葉を詰まらせるパティ。
「・・・3度目が無いことを祈るぞ」
「うう・・・」
 言われるたびに縮こまっていくパティに、アガートは軽く頭に手を置き、その艶やかなブロンドをそっと撫でてやる。
「・・・泣いて良いぞ?別に」
「子ども扱いしないでください。一応、コレでも一国の王女なんですから。これぐらいの覚悟は・・・」
「いいから、泣け。見てられん」
 やや強引に彼女を抱き寄せ胸元に引き寄せる。片手で肩を抱いたまま、もう片方の手で優しく背中を叩いてやる。
「泣くときは泣くもんだ。立場も性別も歳も関係ない。無理する必要も無いんだしな」
「ううっ・・・」
 突然のことに驚いたままのパティはそのまましばらくなすがままに、彼の黒服に顔を埋め体を預けていたが、次第にゆっくりと、静かに半壊した小屋の中に小さな嗚咽が漏れ始めた・・・。
「・・・怖かった・・・です・・。死ぬかと、殺されるかと・・・」
「・・・」
「怖かった、怖かったです・・・凄く、凄く・・・・!」
 声を上げないのは、彼女なりのプライドだろうか、単に恥ずかしいからなのだろうか。アガートは何も言わずにただその小さな体を抱いたまま思った以上に細くか弱い肩に軽い驚きと彼女の無事に改めて安堵の念を感じていた。
「さて・・・と」
 傷を抑え血まみれで呻いているロイド。無傷だったパティ。二人に交互に視線を送り、何となく、天井を見上げ前髪をかき上げる。
「任務完了、だな」
 事件の解決を確信し、アガートは目を細め誰にともなく、小さく息を吐いた。




 あとがき
やっとここまで来ました17話。次回でようやくどたばた姫様救出作戦も終わりです。
 王家への恨みを歪んだ形で実行したロイド。テロリズムにどんな崇高な言い訳があろうとも、テロリストはテロリスト、言い訳は所詮言い訳ということです。
 今まで王族である自分を嫌い続けてきたパティ。彼女もこの事件で少しずつ考え方を変えていきます。
 そしてどんな手段を使おうと王家への恨みを晴らしたかったロイド、そしてそれを理解しつつ彼を倒したアガート。
 正義は人の数ほどあるものです。
 次回は誘拐事件完結編。ちよっとギャグテンポにしてみようかと(え、いつも?)ロイドの犯行動機。
 かなり重いはずなんだけど上手く表現できていればこれ幸い(切腹)。アガートの登場がかなり都合よすぎなのはご愛嬌。
 「お前出番待ってたんじゃない?外で」なんて突っ込みをされたら作者は首を吊って化けてでます。うぐぅ



 次回、着々と荒廃が進む世界、ファルガイア。
 渡り鳥達が荒野を彷徨い各々の正義を求め銃を取るこの大地に、一人のモコモコした渡り鳥が現れた。
 両手に構えるは漆黒の二丁拳銃ケルベロス。その首に光る蝶ネクタイ。ずんぐり頭にフワフワボディ!
 その毛皮には銃弾は通らず、彼の前に立ちはだかるものは皆滅びの一歩を歩むのみ。
「今だっ!ハイ・コンバイン!」
「ふもっふぁーーー!!!」
 『3割引き』のガーディアンに導かれるまま、彼はこの荒野に何を見るのか・・・

「ついにWAにまでネタを出したか・・・」

 使えるものは親でも使います。

 新発売ウェスタンRPG。「ワイルドアームズ4 着ぐるみに砂埃が入ってきます」。
 来年7月発売決定!!

 判ってると思うけど、嘘八百でござる。

 では、次回18話、ポルグラの新曲が出ないうちに・・・。無理?


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