「ラストソング」 〜第十八話 「嵐、過ぎて…」〜


「おや?」
 ルシアとロナードがようやく森の奥の木こり小屋に辿り着いた時には既にアガートがパティの肩を支えながらちょうど外に出てきたところだった。
「お前らもいたのか、一足遅かったな」
 二人に対し誇る訳でもなく、アガートが言う。パティは涙で真っ赤になった目と顔を見られたくないのかアガートのコートをギュッと握ったまま顔を伏せている。当のアガートは涙で濡れしっかりと捕まれ皺になった自分のコートに僅かに眉をひそめていたりするが、まあご愛嬌。
「全くだ、本当にもう助けられてたとはなぁ」
「まぁ、いいじゃないか。無事みたいだし、お姫様も」
 つまらなそうに溜息をつくロナードに、ルシアはやれやれと肩をすくめ相方の先ほどの言葉どおりの展開に本心は多少残念がっていたりする。
「とりあえずこのままこの子を騎士団に送り届けるつもりだが・・・。もうすぐそばまで来てるだろう?」
「あー、判らん、俺たちはついさっきまで変な二人組みに襲われてたし」
「そうそう、なんだっけ・・・えーっと・・・ああ、そうだ。2000万パワーズだっけか」
「何だそのファンタスティックなボケは。違うだろ」
「判ってるって、イツモココカラだろ?」
「段々生々しいボケをするのはよせ・・・色々面倒だから」
「・・・俺は突っ込むべきなのか?」
 放っておくと明け方までかかりそうな二人のやり取りに、アガートはパティにコートを掴まれたまま瞳を細め小さく溜息をついた。



「無事、パティソール王女を保護したそうです」
 携帯無線を片手にレガーシーがテントの中の団員達を見回しながら小さく笑みを浮かべる。と、数秒遅れてから騎士団テントの中で大きな歓声が溢れ出す。
「怪我もないそうです。アガート・ハーキュリーに連れられただいま森に突入している騎士団と合流するそうです」
「よかった・・・。最良の結果ね」
 はふ、と息をつきテント中心のテーブルの上にグッタリと倒れこむカリン。普段どおり、平静を取り繕っていたものの、糸が切れたのだろう。
「んー・・・。じゃあ、私は鉢合わせる前に戻るとするわ」
 テーブルから顔を起こし立てかけてあった錫杖を手にし椅子から立ち上がる。
「こんな時ぐらい、妹君にお会いしないのですか?カタリナ様」
「いいのよ、今更姉貴顔してほしくないでしょうし。妹に何もかも押し付けて逃げ出した愚姉が顔つき合わせて何を言えばいいのよ」
 両手を頭の上に伸ばし伸びをしながら、あくまで気楽そうな口調でカリンが愚痴る。レガーシーも複雑な面持ちでしばらく唸っていたが、結局彼女を無理に引き止めることはしなかった。
「じゃあね。もちろん、あの子には私が来たことは言わないでね。でないと貴方の大切な盆栽が翌朝味噌臭くなってるわよ?」
「止めてください妙な脅迫は。いやマジで」
「あははっ、じゃ、ホントに行くわねもう」
 テントの入り口まで来て、一度振り返るとレガーシーと他の兵士達を見回し、もう一度念を押す。
「本当に内緒にしておいてね?こんなこと頼める立場じゃないのはわかってるけど、お願いね?」
 言うや否やテントを出て行くカリン。レガーシーはその後姿を黙って見送りやれやれ、と髭を掻く。
(困ったものだな・・・姉妹そろって)
 カリンがいなくなってから、歓喜に溢れ続けるテントの中でレガーシーだけがその顔を曇らせていた。



 一方クルス達も、王女救出の知らせを受けていた。
「よかったですね。主犯格の男もすぐに捕らえられるです」
 携帯電話をジャケットのポケットにしまいながら横で止めたバイクに腰を掛けていたヴァイツに振り返るクルス。一方のヴァイツは軽く頷いただけでとくに感想はないようだった。
「無駄足になったな・・・」
「そうでもないですよ。少なくとも今回の黒幕がゼクロス、およびダレス室長だと言うことは判りましたしあのフィラットと名乗った女性、ゼクロスが我々・・・いえ、ヴァイツさんにかなり執着していることも十分な収穫です」
 ヴァイツは冷静に分析を進めるクルスを横目に、彼女がダレスに未だに「室長」とつけて呼ぶことを微かに気に掛けていた。
(割り切れないのも無理は無いか・・・元上司が敵に回ったんだ。堅い割りに繊細なのかもな・・・)
 本人が聞いたら100%怒られる感想を密かに感じながらヴァイツは元来た道を戻ろうとバイクのハンドルを握る。
「さて・・・ここにいてもしょうがない。帰るか」
「はい」
 クルスも応じ、バイクの後ろに乗ろうとして・・・。
「・・・これは?」
 不意に、彼の放った一言に咄嗟に体制を戻しヴァイツの向けている方へと視線を合わせる。
「どうしました?また・・・ですか?」
 先ほどの襲撃、スケロスやフィラの時を思い出しクルスが視線をそらさず隣のヴァイツに声をかける。
 ヴァイツはと言うと彼女には答えず、ただじっと暗い森の奥の一点を見据えているだけである。
(精霊士や魔獣の気配じゃない・・・しかし、この気配と魔力は・・・まさか)
 僅かに右手を上げる。感覚を研ぎ澄ましいつでも応戦できるよう、手の平に小さな炎が生まれる。

――待ちな。戦う気はねぇよ――

「・・・!」
「?」
 突然響く声。ただし、隣のクルスは無反応ではあるが、どうやらヴァイツにのみ語りかけているらしい。
(貴様・・・上級魔族か・・・)
 自分の頭に飲み響くその「声」に、ヴァイツも同じように頭の中で問い掛ける。

―― 一度お前さんを見ておきたかっただけさ。覗くつもりはなかったんだ、悪かったな――

(姿を見せたらどうだ)

――今日は様子見さ。別にお前さん達をどうこうしようなんて思ってねぇし。またいずれ会うだろうよ――

(待て!・・・貴様何者だ?奴の手のものなら・・・)

――この森を焼き払うつもりか?ここでやり合ったらそこのお嬢ちゃんも無事じゃないぜ――

 声が、心なしか遠くなる。相手が『感応』を切りかけているのだ。
(待て・・・!お前はまさか・・・)

――じゃあな、魔竜の王。今度はちゃんとした自己紹介を含めて、な――

 一方的に、それだけ言うと『声』は途絶えた。途端に森の中からも気配が消え、静かな風の音や葉の擦れる音のみが響き渡る。
「どうしました?一体、何が?」
「いや・・・」
 怪訝顔のクルスにヴァイツは視線をゆっくりと移し、バイクをUターンさせる。
「戻ろう。長居は無用だ」
「え?でも・・・」
「何でもない、俺の気のせいだ」
 ヴァイツは顎でバイクの後部を促す。クルスは納得していない顔だったが、素直に後ろに跨り彼の腰に手を回す。珍しく強い口調の彼の様子に戸惑いながらも言われるままにそれ以上は追求しなかった。
(まさかとは思うが・・・)
 頭に残る疑念を払うかのように、アクセルを吹かし1m先も見えない森の中を爆音と共に漆黒の機体が駆け抜けていった。



「やれやれ、バレないようにしてたつもりだったんだけどな」
 森の中の1本の木の上、枝の上で一人の男が立っていた。ざんばらの灰色髪にまるで牙のように赤くメッシュが入り闇夜に浮かんでいる。エメラルドのような緑の瞳はつい遠くで森の中を走る一台のバイクを鋭く見据えている。
「ヴァイツとゼクロス。魔竜の生き残りし二人、か。さて・・・」
 夜風に靡き灰色の髪が揺れる。木々の枝の隙間からは、その髪と同じように赤いラインの入ったズボンや袖無しの白い上着が見え隠れする。夜の森の中で浮かび上がる上着とズボンの真紅のラインはまるで返り血のように克明に浮かび上がっている。
「ゼクロス・オルタネート・・・しゃらくせぇことになる前に動きを掴んでおくかね」
 呟き、次の瞬間風に靡いた木の葉と共に、その姿は枝の上から消えていた・・・。





「失敗・・・か」
「主犯格ロイド・フィースを除きパティソール王女誘拐の容疑者は全員騎士団に連衡、逮捕されたようですわ。ロイド・フィースも重傷。騎士団に捕獲されるのも時間の問題かと」
「・・・」
「どうやらダレス、君の計画は失敗してしまったようだね。ロイドを嗾け王女を誘拐できたところまではよかったんだけどね」
 パタン、と読みかけの本を閉じるとゼクロスは苦虫を噛み潰したような顔のダレスに軽い口調で微笑みかける。別段、彼の失敗をとがめることも怒っている訳でもないらしい。
「まあ、失敗したとは言え王家やギルドには十分なプレッシャーを与えられただろうし、ヴァイツへの挨拶もできたしね」
「効果は十分ですわ。そう気を落とすこともありませんわよ、ダレス様」
ゼクロスの横で扇で口元を隠しながらフィラが微笑む。彼女も彼を咎めたり責める様子は見られないが、ゼクロス共に本心のほうは定かではない。
「ヴァイツ・クロフォードの足止めは確実だった。言い訳がましいが、今回の失敗の最大の要因はあの黒服の剣士の存在があまりに予想外の結果を生んだ、ということか・・・」
「アガート・ハーキュリー。トレジャーハンターの間では最強の男とまで囁かれる存在。それに何より興味深いのは彼の両親だよ」
 フィラの調べ上げたアガートの報告書を片手に、ゼクロスは不適に口の端をゆがめる。
「両親・・・?どういうことだ」
「彼の性に聞き覚えはないかい?ハーキュリーと言えば古くから守護神(ガーディアン)の防人として有名な一族なんだけど。」
「・・・まぁ、聞いたことはあるが、それで、その男の親がどうした?」
「まぁ、ね。父親の名前、これがまた物凄い有名人だよ・・・。ディスフォード・ハーキュリー。この名前ならよく分かるだろ?」
ゼクロスの口にした名前にピクリ、とダレスの肩が震える。その目には確かに驚愕の色が浮かんでいる。
「あの伝説の剣士か?だがあれは実在の話とは・・・」
「まあ、そう思うのも無理はないよね。他大陸の話しとは言え、焔の魔人の災厄と、それを打ち倒した英雄達の物語。その中に登場する英雄の二人、剣の聖女と黒の剣士。その息子が・・・」
「このアガート・ハーキュリーと言うのか?・・・お前が言うなら間違いではないのだろうが、なるほど。ヴァイツ・クロフォード同様、この男にも少し警戒しておかねばな・・・」
「そういうこと。彼に関してはシュミットに少し任せてみようと思ってる」
「無難だな、では今後はこの二人をマークし、計画を進めていくことにしよう」
「そうだね」
 ゼクロスが頷くとダレスはそのまま場を離れていく。
「・・・まぁ、気にかかるのはその二人だけじゃないんだけどね・・・」
「あら、ならダレス様に申し上げればよいのでは?」
ダレスが離れた途端、苦笑混じりに呟くぜクロスに怪訝そうにフィラがたずねる。
「クス・・・分かってるくせにそういうことを言うんだね、君は」
「ご冗談を。私はゼクロス様の言葉が全て、それ以上のこともそれ以下のことも致しません」
 あくまで涼しげに答えるフィラ。彼女にとっては事実、ゼクロスという主が全てであり、ダレスに対しゼクロスがさほど信頼を寄せていないことも見抜いているにもかかわらず、決して何も口出しはしない。
 ゼクロス達も決して一枚岩とも限らないらしい。
「僕としては、多分今回は失敗するんじゃないかなと思ってたし、実際失敗しても何とも思わないからいいんだけどね。ただ・・・」
 再び閉じた本を開き、続きに目を通し始めるぜクロス。口調こそ穏やかなままだったが、フィラは自分の主の瞳に冷たい光を見逃さなかった。
「面倒にならないよう、保険はかけておいたけどね、きちんと」



 アガートがパティを連れ出て行った密林深くの木こり小屋、血まみれで壁に背を預け呼吸も荒く腰をついているのは、今回の事件の主犯、ロイド・フィースであった。
アガートに受けた傷は絶命こそしないものの完全に彼の動きも力も奪い去っていた。身動きも取れず、このまま放っておいても10分も立たないうちに自分はここを見つかり騎士団かギルドか、どちらかに逮捕されるであろう。
「くそっ・・・・!!」
 口を開けばそんな台詞が込み上げてくる。「あの男」の入れ知恵があったとは言え、今回の計画は自信があった。事実王女を実際にここまで連れ去ってこられたのは大きな成果だった。だが、たった一人の男に全てが打ち砕かれた。
 長年に渡って練り上げられた計画が、ただ一人のイレギュラーのせいで一瞬で、まるで浜に立てられた砂の城のように、いとも簡単に一瞬で・・・。
「俺は・・・諦めない・・・!絶対・・・!!」
 べっとりと半身を濡らす自分の血の不快感と激痛に眉をひそめながらロイドの目はまだ死んではいなかった。
「そうさ、俺はまだ死んでない・・・俺を殺さなかったことを後悔させてやるぞ・・・シンクレル、そしてアガート・ハーキュリー・・・!!」
「残念だが、後悔するのはお前一人だ」
 不意を付く第3者の言葉にロイドは首だけを上げる。体を動かすほどの力は出血によりもう無いのだ。
「騎士団・・・いや、ギルドか?どうでもいい。とっとと連れていけ・・・・?」
 そこでようやく、ロイドは僅かに朦朧とする視界の中で、小屋の入り口にたっていたのが騎士団員でもギルドの団員でもないことに気づいた。
 逆光を受けよくは見えないが、体をマントで包み顔や頭もスカーフで隠されかろうじて目元やところどころスカーフの隙間から見える髪だけが、それを人間だと知らしめている。
「お前がこのまま逮捕されれば何かと面倒になるらしくてな」
「・・・!て、てめぇ・・・口封じってこと・・・・んぐっ!!?」
 ロイドが言い終える前に目にも止まらぬ速さでマント姿の男の一撃がロイドの右胸を貫いた。
「が・・・は・・・・っ」
 男の手には鉄甲に獣の爪のような鉄爪(クロー)が括り付けられており、ロイドの心臓を的確に一撃で捕らえ突き刺している。
「グ・・・・ぞ・・・・っ・・・・」
 目を大きく見開き、口をパクパクと丘に上げられた魚のように開閉させ、それだけかろうじて喉から絞り出すと、ロイド・フィースは目も閉じずにそのまま絶命した。
「三下の後始末とはな・・・フン、俺も随分安く見られたものだな」
 ヒュン、と風きり音を立て手を振りクローにこびりついた血を切るとその男はそのまま小屋を後に、暗い森の中に消えていった・・・。




あとがき

18話です。誘拐事件編クライマックスですよ。ヴァイツ、アガートがメインときて次回はようやくルシア編か!と思いきやヴァイツへ接触した謎の人物。果たして彼は何者なのか、敵か、味方か?
次回はまったりとした話にしたいと思います。カリンの正体・・・もう勘のいい人にはバレバレでしたかね(汗)
影の薄いダレス室長ね更に本腰を上げ始め、さてさてどうなるこれから、そして、どうしよう俺。
作者の腕がどこまでついていけるのか(待てや駄目人間)ヴァイツの前に現れた謎の男。彼の正体は次回明らかになります。これ以上キャラが増えると僕が扱いきれません、大佐!!(銃殺)
ちなみに今回ラストに登場したマントの男、実は今回が初登場ではありません。序盤に実は一度だけ登場済みだったりしています。さて誰でしょう(笑)
ちなみにキャラクターイラスト、SS、楽曲等は終始募集歓迎いたします(待てこら半分本気だろ)





次回、不死身のモンスター、アンデッド。古代のバトルロワイヤルが現代で再び始まろうとしている中、
ブレイドが立ち上がった。ラウズカードでアンデッドを封印せよ!!
「無限斬刀っ!!」
それブレード、惜しいっ!
「オンドゥルルラギッタンディスカー!!」
「オデハキサマヲムッコロス!!」
「オレノカラダハボロボロダァ!!」


今や空前絶後の大ブームを生み出したオンドゥル語!!
カードシステムは龍騎で一度使ったぞ、ネタが無いのかプロデューサー!!
トランプ絵柄じゃ出てくるライダーは5人までが限界じゃねーか



「カリスが出なきゃあんな三流特撮見ないわなぁ」

いっそ「仮面ライダーカリス」と名前を変えてください。

次回ラストソング第19話。「死闘!!雷電は何でも知ってるんだね富樫君!家政婦は見ていただけで何もしないから話が進まないじゃないかロビンスペシャルRX−78血風録。オンラインゲームにハマると生活リズムは大崩壊だよ銭形のとっつぁん知るかボケェ編」にてございます。



いい加減にしないとそろそろラピュタからの砲撃に合いそうですな。


では、次回19話、北関東が寒冷前線に包まれ低気圧の朝が来ないうちに(意味不明)




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