「ラストソング」 〜第二十話 「歴史の断片」〜


 シンクレル大陸から離れた大陸間の海の上、一機の巨大な客船がその進路をシンクレルに取っていた。
 黒塗りの飾り気の全く無い外観はそれが旅行用の船ではない事を物語り、目立たないように同じく黒塗りに統一された側面から覗く数台の砲台が、その正体を軍艦と雄弁に語っていた。
 波飛沫を浴びる船体の砲台より上部には旗をモチーフにしたペイントがされており、青い旗に2匹の蛇が描かれた紋章が刻み込まれている。
「このまま順調に進められれば2日後にはシンクレルに到着できそうです、大佐」
 船内で舵を取っていた軍服の男が振り返らずに背後に声をかける。『大佐』と呼ばれた男は薄暗い操舵室の中で退屈とも興味が無いとも見えない憮然とした表情で真っ直ぐ、一面の水平線しか見えない正面の光景を睨んでいる。
 淡いモスグリーンの軍服の右胸に輝く幾つかの勲章、そしてその一つが彼の身分、空軍大佐だと言うことを証明している。
「空路が使えれば早いのですが、申し訳ありません。何分、外交上はまだ向こうには何も告げずに来ているもので」
「構わん、これ以上進行を進めれば流石にあの平和惚けした王達も察知することだろう。今日の夕暮れには正式に訪問の意が閣下とシンクレルの間に取られる。我々の役目はその前に秘密裏に上陸、ことの機会を進めることだ」
「重々承知しております。密偵の報告によれば向こうの協力者とも明日にはコンタクトが取れるかと。予定通りに進められています」
「ふん、協力者、か・・・」
 部下の言葉に大佐と呼ばれる男はもう一度、自分が持っていた書類を掲げ目を通す。シンクレルに上陸し、「ある目的」を果たすための現地の協力者の名前を、誰に言うでも無く静かに口の中で溶かす様に漏らす。
「ゼクロス・オルタネート・・・」
 しばらく前に接触を果たした相手だ、シンクレルでもっとも危険と言われている男。だからこそ、自分達にとっては都合のいいように事が進む。
 信頼はしていない、ただ技術提供とその結果は確かに多大なる利を得た。だからこうして今も行動を開始している。静かに、静かに標的の元へと進んでいく軍艦の中、大佐と呼ばれる男、ボルク・エアハルトはただ静かにその暗く輝く瞳でまだ見えぬシンクレルの地を見据えていた・・・。




「うきゅ〜〜〜っ!!」
 あくる日の朝、間の抜けた雄たけびとともにレポートの束を片手にしたキャリーがペリュトンに飛び込んできた。
「うきゅっ、ルシアいませんか?あ、こんにちわセシルさん。ルシアは?」
「まあまあ落ち着いてキャリーちゃん。ルシア君はまだ今日は来てないわよ?」
 落ち着いて水の入ったコップを手渡すセシル。店の中にはセシル以外にはカウンターに座りのんびりと紅茶を啜っているアガートがいるぐらいだ。
「なんだ、また課題を手伝わせる気か?いい加減あの居候を頼るのも程ほどにしたほうがいいぞ」
 ゆっくりとアールグレイの風味を楽しんでいたアガートが、風情を崩され多少機嫌を損ねたのか棘のある口調で慌しく乱入してきた来訪者を出迎える。
「だって今回のはちよっといろいろ大変で・・。う、うきゅっ・・」
 レポートの束を抱きかかえ頼りにしていた相手がいなかったことに涙ぐむキャリー。ちなみに追い詰められているが、これは結構毎度の光景であったりする。
 ちなみにロナードは昨日別れてから姿を見せない。多分ナンパでもしているのだろう、ナンパで難破してるんだろう、とキャリーは勝手に決め付けていた。
「どれどれ、何だよ今回は・・・。っと」
 アガートがレポートの一枚目、表紙を覗き込み小さな感嘆を漏らす。
「『太古の神々と魔の抗争について、独自の観点と展開を持って考察せよ』か。題材はあの神魔戦争かよ」
「へぇ、随分今度のは大きなテーマなのね。」
 セシルも同じようにキャリーの持ってきた書きかけのレポートを見て感心したように声を上げる。
「遥か昔、まだ王政すらなかった時代に起きた世界規模の大戦争だよな。確か神々と大魔族の長きに渡る戦いの時代のことだろう?」
 シンクレル大陸には古くから伝わる有名な昔話の一種である。とは言うものの遺跡や過去の文献から、この戦いは確かにあったという事実は幾つもあげられており、昔話というよりは歴史の1ページといったところだろうか。
 シンクレル出身でないアガートですらよく知っているこの話が、今回キャリーが学校から出された課題なのである。
「現在でも世界中の学者を苦しめてる謎まみれの伝説だ。対立した魔の側は魔族としてその存在を実証されまくってるのに『神様』の側は痕跡ひとつ残されていない、まさに空想の産物のような存在のままの伝記だ。学生のレポートにしては身が重い気がするが?」
「うきゅうう・・・だから困ってるんですよ。テーマが大きすぎてどこからどうすればいいか全然わかんない・・・」
 神魔戦争とは大陸中の誰もが知っている大昔の、歴史上もっとも大きな戦争のことであることは知られているが、意外にも詳しい内容はほとんどの人が理解できていないのが実際のところである。
 事実、この世界において『神』という存在は実在する確証は得られていない。『法術』と呼ばれる僧侶(プリースト)達の使用する治癒術や神聖術と呼ばれる ものも実際は術者の『信仰』や『思念』といった精神力を糧とした魔術の一環なのである(堅物の僧侶の一部では『神の力』と信じてやまないものも多いが)。
「あ〜・・・。でもこれじゃあの記憶を落としたルシアに手伝ってもらっても役に立たないんじゃないか?あいつは歴史どころか過去だってないんだし」
「あ、それは平気。ルシアには文献を調べたり資料をもってもらうぐらいだし」
「・・・さり気無く酷いなお前も」
 半眼で呟くアガートだがキャリーはそんな様子にも全く気にせず、
「アガートさんは?ルシアどこにいるか知りません?」
「まあ・・・知ってると言えば知ってるが、言えば奴がどうなるか目に見えている分多少言い辛い気もするが」
「で、どこにいるの?」
「ほほぅ、良いように無視か、奴の尊厳は」
 ふう、と軽く溜息一つ。別に自分に被害が及ぶわけでないからいいか、とさりげなく鬼畜な納得をしてから口を開く。
「奴なら朝早くからギルドに向かったぞ。首都行きのバスに乗るところを見たんで声をかけたんだけどな」
「首都に?ついこの前言ったばっかりなのに・・・ギルドに何の用なんだろ」
「自首じゃないか?」
「ルシア君は一体何をしたの?」
 アガートの投げやりな応えに流石にセシルが割って入る。
「でもギルドかぁ・・・。うきゅっ、さすがにそんなところまで逃げられたら追いかけられないよ・・・」
「いや、逃げたわけじゃないし。諦めて一人で頑張りな」
「うきゅきゅきゅうぅ・・・」
 納得できないといった顔だが、それでもキャリーはそのまま大人しく帰っていった。寂しそうな後姿を見送るとセシルが改めてグラスを磨きながら現在唯一の客であるアガートに声をかける。
「それにしても本当に、ルシア君一人でなんて珍しいわよね。どんな用事なのかしら」
「さぁ・・・。あいつにもそれなりにあるんでしょう、色々とね・・・」
 すっかり冷めた紅茶を啜り、アガートは気のない返事を返した。



 一方いつもの三馬鹿チームのもう一人、ロナード・エアハルトも偶然ギルド本部のある首都ボウスシェイバーにきていた。
「幸が薄くても気にし〜ない〜っ今日も今日とて愛のハンター貴女のハートにグングニル〜♪っと・・・」
 スチャラカな鼻歌を鳴らしながら町を歩くロナード。特にコレといった用事できていたわけではなく、実はただ一人で意味深にギルドに向かったルシアを尾行してきただけだったりする。もちろん理由は面白そうだったかららしい。
「さすがに本部の中まではいけないしなぁ。クルスさんには是非是非会いたいけどああいったタイプの女性は職場に踏み込まれることを良しとしないものだしなぁ・・・う〜む。あんまり面白くなかったかもしれん。これ」
 早くも退屈になってしまいこうして商店街をフラフラとしていたりするのであった。もっと、こうして首都に来た目的もかなり不純なために付き合う相手も無く退屈になっても自業自得なのだが・・・。
 そんな折、ふと広場のほうからなにやら大きな言い争いのような喚声がロナードの耳に届いてきた。
「おや、トラブルかな?野郎なら見物しちゃろっと」
 気楽に野次馬気分で広場へと足を運ぶロナード。だが彼の希望とは裏腹に、人盛りの中心にいたのは一人の女性と、それに絡むように怒声を上げる無骨な3人のハンターらしき男たちだった。
 女性は20代前半だろうか、硬きそうな顔つきのためもしかしたらもう少し幼いかもしれない。男たちのほうは・・・興味がわかないのでロクに見ていない。
 ロナードは頭の中で勝手に男たちのほうにだけモザイクをかけてしまっていた。
「だから言ってるでしょ?アタシは相棒を待ってるだけだって。あんたらみたいな木偶の坊なんかに興味は無いのよっ!」
 威勢のいい、よく通る声が広場に響く。一人の女性を相手に怒鳴りたてられ男たちも顔を真っ赤にして大声を張り上げている。
「あ〜・・・なんだこりゃ」
 人ごみから顔を覗かせやり取りを見ていたロナードのぼやきに、近くにいたフード姿の小柄な少女が下から覗き込むように顔を見せた。
「え、えと・・・あの女の人にあっちの人たちが、えと・・・」
「あらら、落ち着いて落ち着いて。痴話喧嘩にしたら不釣合いとは思うけど」
 人見知りの激しい娘なのだろう、小さな身体を震わせ律儀に説明をしようとするのだが慌て、混乱しているため同じフレーズを延々と再生する壊れたステレオ状態になっている。それに見かねたのか、隣にいた灰色の髪の男が代わりに口を開く。
「あの男どもが一人でいた娘に声を掛けたんだよ、ハンター同士組まないか、て。まぁどうせ卑下た下心あってのことだろうけどな」
 呆れた、というよりまるで下等な小虫を見下ろすような眼差しの男の視線を追うように、再び広場のやり取りに視線を送る。
 どうやら声はかけたのだが断られ、更にかなり気の強い娘らしく男たちに対し容赦の無い言葉をかけ続けヒートアップしているらしい。
「何にせよ、どうでもいいことだな。いくぞエスト」
「え、あ、あの、助けたりはしないんですか?ああっ、は、早いです、歩幅っ、早いですっ」
 興味はまったく無いらしいその灰髪の男は隣にいた連れらしき小柄な少女に一声掛け、人ごみを出て行く。それの後ろに慌てて付いて行こうと早足で、何度も転びそうになりながら少女が去って行く。何げなくその後姿を見送っていると、転びかけた拍子に娘のフードが外れ、人間とは明らかに違う、大きく、毛皮に包まれた頭部から生える垂れた耳が露になる。
「へぇ、亜人の子供か、首都とは言え珍しいなあ。シンクレルにいるのは」
 ロナードが二人組みの後姿に目をやってる隙に、広場から大きな声が上がった。
 視線を戻すと男の一人が地面に倒れのびている。どうやらとうとう手を出してきた男が、逆に蹴り倒されたようだ。
 そこでロナードはようやく始めて、その女性の『顔以外の姿』に注意を向けた。
 流れるプラチナのような銀髪のロングヘアは活動的にスラリと垂らされ腰元まで届き、漆黒のタンクトップに赤のベスト、男物のズボンと動きやすさを重要視したような薄着姿で露出する二の腕は右肩の部分に鳥の羽を模した様なタトゥーが入れられている。ズボンのベルトには腰の後ろにホルダーがつけられており、そこにはなぜか弦のついていない弓が入れられている。もしかしたら弓ではなく双頭剣かブーメランの類なのかもしれない。
 鋭く目の前の男に向けられる紫の瞳には強い意志が写されておりロナードは何の世辞も下心も無く純粋にいい女だな、と感想を浮かべた。
「て、てめっ・・・口には口で言い返せよコラ!!」
「女のくせになんて乱暴な奴だっ!!親の顔が見てみたいぞコラ!!」
 仲間を蹴り倒された残りの二人は今まさに腰に携えたナイフや手斧など、各々の獲物に手をかけようとし女性に食いかかる。
 そして次の瞬間、身構えた女性がもう、2回足を上げ・・・
 その前に真後ろから蹴り倒され不意を疲れた男二人が同時に固い石畳に顔面をぶつけ、昏倒した。
「助けはいらないっぽかったけど、一応な。女性に手をあげる上に二人がかりなんて、ブサイクは性根もモテない素質100%だねぇ」
 人ごみの中からいつの間にか最前列にきていたロナードがたった今蹴り倒した男たちを見下ろしやれやれと軽く首を振って見せる。
 周囲からはロナードと凛とした姿勢を崩さなかった女性に拍手が沸き、しばらくするとその人ごみも喚声もまばらになり、四散していった。
 何となくその場に残っていた女性は興味深そうにロナードを見つめ、その視線にロナードもにこやかに笑顔を返している。
「ありがと。助かった、て言えばいいのかしら」
「いあいあ、言っただろ?助けはいらないっぽかったけど一応、てね。女性が絡まれているのに見て見ぬフリができないタチでねえ」
 芝居がかったような態度でロナードが肩をすくめる。ちなみに昏倒した男たちはすぐに騎士団に連行されていった。ちなみにその際偶然近くにいたため同行していた騎士団長を見て数名の慣習から『親玉の登場か?』などと声が上がったのはここだけの秘密だ。
「いいのよ、その気持ちが嬉しいものなんだから。改めてお礼を言わせて貰うわね。ありがとう、紳士なナンパ師さん」
「おいおい、それはないんじゃない?」
「あら、だって少し前までこのあたりで女の子に声をかけまくってたの、目にしてたけど?」
「あ〜・・・まあ、それはあれ。風はどこにでも吹く、て奴で」
 気の強そうなタイプとはわかっていてもついついいつもの軽いノリが出てしまう。嫌いなタイプだろうなあ、などと思い女性の顔を覗き込むと 意外にクスクスと笑いを漏らしていた。
「あはは、何それ。面白い人ね、あんたって」
「それはよく言われる。多少自信もあるしね」
「ふふ、時間があればもう少し話をしてたいところだけど・・・」
「ああ、相棒さん待ちなんだっけ?いいよいいよ、女性のスケジュールを狂わせるのは主義に反する」
 内心ちょっと残念、などと思いながらもあえて強がるロナード。下手に格好付けるくせに押しがイマイチ生温いところが短所だということに本人はまだ気づいていないらしい。
「ごめんね。また機会があったら会えるといいわね」
 銀髪の女性はどうやらそのまま待ち場所を移動するらしい、相棒とはよっぽど方向音痴なのか、それともこの娘自身がそうなのか・・・。
「ああ、そう願ってるよ。俺はロナード。ロナード・エアハルト。頭の片隅に名前を置いといてもらえると嬉しいな」
「ええ、覚えとく。アタシはナギ。家名は無いから気軽にそう呼んで。じゃあねロナード。また縁があったらね」
 手を振り微笑みかけて去って行くナギと名乗った女性。別れ際ではじめて見られた笑顔にロナードはしばらくその場で立ち尽くしていたが、思い出したようにポツリと
「・・・いいな、ああいうタイプも」




「さて、とうとう来ちまったな」
 一方同じ頃、ルシアもまた首都にあるギルド本部の前へと到着していた。前回足を運んだ際にはキャリーとロナードもいたが、いざ一人で来るとなると、目の前の荘厳な建物はいささか威圧感があるものだ。
「どうしたもんかな。いざ一人で来るとプレッシャーがあるもんだなぁ・・・」
 課題に追われるキャリーの手伝いから逃げる口実にもなるためひとりで来たはいいものの、キッチリとした制服に身を包んだ団員たちが行き来する大きな建物を前に地位も名誉も記憶も無い下宿人としては無意味な威圧感を感じているらしい。
 どうしようかと何げなく目線を泳がせているうち、ルシアはふと救いの女神を視界に見つけた。
「おっ、あれは確か・・・いかん名前忘れた、えっと・・・・むぅぅぅ・・・・」
 見知った顔を見つけても名前が思い出せない、愛想の無い自分の性格を多少恨みながら唸っていると逆に向こう側がこちらに気づき、足を運んできた。
「あら、確か・・・「鍵」の解析に来ていた」
「あ、ども、コンニチワ、です」
書類が入っているのだろう、厚めのファインダーを胸に抱えたクルスが立ち往生しているルシアのほうへとやってきた。
「また何か発見したんですか?今日はお一人のようですけど」
「あ〜・・・今日はあの駄目コンビは置いてきたんで、というかちょっと私用というか、え〜っと・・・」
 知り合いにあってもこの「用件」をどう伝えればいいか説明に苦しむルシアにクルスも怪訝そうに軽く小首をかしげる。
 幸い忙しい身ではないのだろう、なぜか片手に首都でも一番の評判のパン屋「クロケット」の袋が提げられており、中には大量のパンが覗いている。おそらく同僚数名で昼食にでもするのだろうか、まさか一人で食べるわけはないだろう、コロッケパンばっかりだし。
「ん、何て言えばいいのか、ちょっと聞きたいことがあって」
「はい、何ですか?込み入ったお話なら中でどうです?」
「いやいや、聞きたいのはあなたにじゃなくて、この前一緒にいた、あの賞金首の銀髪のあの男、もとい、彼なんですけど」
「ああ、ヴァイツさんに、ですか?」
 珍しい、とばかりに目を丸くするクルス。それまで事務的とも言える柔和な笑顔か仕事中の真顔しか知らないルシアにとっては初めて見るクルスの幼さが垣間見えるような顔だった。
「あの人に用事ですか・・・。何か事情があるみたいですね」
 詮索は野暮かと尋ねるような視線とともにクルスはギルド本部入り口の横、側面から伸びる小道から続く中庭への道を指差す。
「多分いつもの行動パターン通りなら向こうのほうにいると思いますよ。目立つ外見ですしすぐ見つかるかと」
「あ、どうも、ありがとう・・・です」
 慣れない敬語で頭を下げ、教えられた道に視線を向ける。
「一応悪い人ではないですし、噛み付いたりもしないでしょうけど」
「元S級賞金首ですもんねぇ。まぁ、最低限の覚悟はしてますよ、ご心配なく」
「そうですか?ならいいですけど」
 クルスは別の仕事があるらしくルシアはそこでクルスと別れ中庭へと向かっていった。不安が残るクルスはパンの袋と書類の入るファインダーを抱えたままその後姿を数秒見送っていた。
(心配なのは違う意味でなんですけど・・・ね)



 ルシアがギルド本部の中庭へとやってくると、昼時を過ぎた時間帯のせいか広い庭にも人気は無く、ただ一人、一番大きな木の陰で背を預けぼんやりと佇んでいる銀髪の青年がいるだけだった。
 印象に残る銀髪、赤と蒼の瞳。そしてどこか常人と違う身の回りの空気・・・。
 彼の膝元に(なぜか)居た子犬ほどのサイズのカーバンクルがピクンと耳を上げる。近づいてくるルシアの気配に気づいたのだろう。
 その仕草に銀髪の青年、ヴァイツもゆっくりと顔を向ける。ルシアとヴァイツがそれぞれ視線を合わせる。
「コンニチワ、これで逢うのは二度目だな」
「・・・まあ、そのうち来るだろうな、とは思ってたが・・・」
 別段、この突然の来訪者にも驚くことも無く平然と、予想していたかのようなヴァイツの様子にルシアはますます「ある確信」を強める。
「あんたに聞きたいことがあるんだ、俺にとって結構大事なことなんでね」
 ルシアが一歩、一歩とヴァイツに歩み寄る。ヴァイツは木陰に座ったまま顔だけを向けたまま普段どおりの平静顔で静かに見つめているだけだった。


「あんた、何か知ってるんだろ俺のこと。俺の過去について。聞かせてもらえるよな。」






あとがき


あ〜やれやれときたもんだ、これでようやく20話いきましたよおやっさん(誰のことですか)。物語りもそろそろ折り返し地点がうすらぼんやり見えてきたような気が しないでもないところまでやってきました、はい。ようするにまだまだですけどね(爆)。
ここでようやく他大陸の話が出てきました。4大陸の一つ、北の大陸レザノフ。一年中雪に包まれた機構学の発展が優れる軍事国家です。はたして大陸間の交流が何をもたらすのでしょうか。そして今回初登場が2名、タレ耳がキュートな(笑)ウサギの亜人エスト・マクスウェルとトレジャーハンターを生業とする鷹の亜人ナギ。亜人コンビですねえ。別にただの偶然ですけどね〜あはははははははははははははははははははげふんっんがくくぶはげひゃっ吐血死)


次回、平和な町、あけぼの町を突如襲う魔物の軍勢、ジャマンガ。そこに立ち上がった魔物専門の警察組織「SHOT」の魔弾戦士、フモケンドー。
そのモコモコボディとは裏腹の凶悪ファイトは残虐超人をも震え上がらせ、どっちかと言えば魔物よりも住民からは恐れられてしまっているぞ。

「誰だぁ!!あのファンシーモンスターを呼んだのはぁ!!」

「誰か、誰か助けてーー。いや、あのモコモコからたすけて、どっちかと言えば!!」

「おばあちゃんが言ってた。着ぐるみには手を出すな、モコモコには逆らうなと。」

「綿が、毛が・・・フワフワが来る、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・。」

今日もみんなの悲鳴を背中に立ち向かえ、フモケンドー!阿鼻叫喚がお前の魂のBGMだ!!


・・・どっちが悪だよ。


では、次回21話、雪の降る日、忘れかけていたあの人への思いがこの胸に蘇る頃にもう一度忘れないように手紙を書こうとする前に(何かの歌詞か?)




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